研究概要 |
本研究の目的は、東海一神岡間長基線ニュートリノ振動実験(T2K実験)によって、ニュートリノ振動を高統計、かつ高精度に観測し、全ニュートリノ振動パラメータの測定を行うことである。T2K実験は、2012年6月までのデータ解析の結果、νμ→νe振動からのνe出現事象候補を11事象観測し、2011年に世界で初めて観測したθ13≠0の兆候の証拠を示すことができた。また、ソμ→ソμ振動によるソμ消失現象については、世界で最も精度のよい結果が得られた。この結果を出すにために、私は、東海村における前置検出器の運転責任者を務め、T2K実験のデータ取得が安定して行われることを実現した。一方で、将来の精密測定のために、系統誤差を抑えることが必須である。私はそのために、荷電π中間子の反応断面積測定を行った。T2K実験の信号は、ν,n→l,pで表せられる荷電カレント準弾性散乱である。この反応のバックグラウンとなるのが、終状態に荷電π中間子が生成される、ν,p→l,p,πという荷電カレント1π生成反応である。この反応で、終状態のπ中間子が吸収されて検出されないと信号と見間違えてしまう。この吸収確率は、ニュートリノエネルギーが△共鳴のエネルギー領域にあるために、比較的高く、吸収確率の不定性が大きければ、信号発見の不定性も大きくなってしまう。実際に、過去の実験の不定性は30%と大きいために、信号発見の不定性の最も大きな要因の一つとなっている。そこで、私はカナダTRIUMF研究所のπビームを使用して、新しい実験を行った。そのために、新しい検出器の設計、作成をおこない、無事にデータ取得を終えることができた。データ解析の結果、過去の実験と矛盾しない断面積の値を得ることができ、不定性は半分以上に抑えることに成功した。
|