重い電子系超伝導体URu2si2において、転移温度Th=17.5Kに観測される比熱の大きなとびを伴う相転移は未だに秩序変数が明らかにされず、「隠れた秩序」と呼ばれる四半世紀にわたる大きな謎となっている。またT=1.5K以下で発現する超伝導は隠れた秩序相に内包される形で存在しており、この物質の超伝導発現機構を調べる上で隠れた秩序の秩序変数を明らかにすることは極めて重要であると考えられる。近年、磁気トルクの精密測定により隠れた秩序相において結晶に保たれている4回回転対称性が破れていることが報告された。そこで、我々は実際に「何」が回転対称性を破っているかを調べるためにサイクロトロン共鳴測定とシンクロトロン放射光を用いた精密X線構造解析を行った。サイクロトロン共鳴測定では電子構造の決定を行うことにより、サイクロトロン質量の特異な異方性を観測した。これは隠れた秩序相が4回回転対称性を破る電子ネマティック液体とよばれる状態であることを示唆している。またX線構造解析では、隠れた秩序の相転移温度17.5K以下でわずかな斜方晶歪みが出現することを観測した。この結果は、磁気トルク測定、サイクロトロン共鳴測定によって明らかにされた電子ネマティック液体状態になっていることを裏付ける物であり、さらに磁場をかけない状態で本質的に4回回転対称性を破っていることを明確に示した点で、非常に重要な結果である。
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