研究課題
本研究では琵琶湖の細菌群集を、呼吸鎖キノンを生物指標として亜集団分割し、個々のキノン含有細菌群の炭素バイオマス生産速度や高次栄養段階生物への有機物転換の違いを調査することで、有機物動態との連関を明らかにすることを目的としている。具体的には、(1)呼吸鎖キノンを用いた細菌炭素バイオマス量推定法の確立、(2)異なる呼吸鎖キノンを保持する細菌群バイオマスの時空間変動の調査、および(3)個々のキノン含有細菌群の増殖速度および死滅速度の調査、の3つの研究項目を設定している。特に、平成23年度は(1)(2)を重点的に行った。それぞれの研究項目の実施状況および得られた成果は以下のとおりである。研究(1)琵琶湖定点において10ヶ月にわたり、呼吸鎖キノン量と細菌の総細胞容量(従来の細菌バイオマスの指標)を測定し、関係を検証した結果、キノン量と細胞容量に高い相関関係(r^2=0.94)が見られた。また、現場から単離した異なるキノン種を持つ培養株数株において、細菌体キノン量と細菌体炭素量の比率と、細菌細胞容量と細菌体炭素量の比率を計算した結果、前者のほうが株間でのばらつきが小さいという結果が得られた。本研究は従来法と比較したはじめての研究であり、これらの結果は、呼吸鎖キノン分析が細菌体炭素バイオマス量の指標として十分信頼し得る方法であることを示している。研究(2)もっとも存在量が多かったユビキノン(UQ)-8は、深度と共に存在量が増加し、深水層においても顕著な季節変動性を示すという独特な時空間分布パターンを示した。UQ-8と硝酸態・亜硝酸態窒素濃度との間には正の相関関係(r^2=0.84)が見られた。UQ-8含有細菌群は、しばしば硝化細菌やアンモニア酸化細菌に見られることから、UQ-8含有細菌群が無機態窒素動態に関与して、琵琶湖の物質循環過程において主要な役割を果たしている可能性が考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
申請書において当初、1年目である平成23年度は、呼吸鎖キノンを用いたバイオマス推定手法の確立と現場における定点観測を計画していた。研究実績の概要に示した通り、その2つのサブテーマに関しては計画通りデータを取り終え、既に結果をまとめて国際学術誌へ投稿中である。また、現場観測に関しては、当初計画していた表水層と深水層のみの採水に加え、鉛直採水も実施しており、ユビキノン8の特徴的な時空間分布パターンを捉えることに成功している。
申請書における当初の研究計画では、従来の希釈培養法(Landry and Hassett 1982)とキノン分析を組み合わせることで、細菌の原生生物の捕食による死滅速度を見積もる予定であった。しかし、1年目の予備実験において、改良希釈培養法(Evans et al. 2003)と呼ばれる方法とキノン分析を組み合わせることで、細菌群集の増殖速度・捕食による死滅速度・ウイルス溶菌による死滅速度を同時に見積もることに成功した。そこで、細菌群集と微生物食物網の炭素動態をより詳細かつ正確に捉えることができる本方法を、研究(3)(研究実績の概要参照)に適用する予定である。
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