研究課題/領域番号 |
11J00690
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原 秀明 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | レーザー冷却 / 量子光学 / 量子縮退気体 |
研究概要 |
本研究の目的は、極性分子YbLiを用いてLattice-Spin Modelを実現し、量子スピン系の物理を研究することである。そのために、量子縮退領域にまで冷却されたYbとLiの原子混合系を光格子に導入してから、フェッシュバッハ共鳴と誘導ラマン遷移を用いて振動回転基底状態のYbLi分子を生成する。まず、YbとLiの量子縮退混合系実現に向けて、交差型光トラップ中に両原子を同時に捕獲し、蒸発冷却を行った。Yb原子は蒸発冷却の効率がよいが、Li原子は効率が悪いため、Ybを冷却しながらLiをYbとの衝突により熱平衡化させる、協同冷却という機構を用いて冷却を行った。その結果、174Yb(ボソン)-6Li(フェルミオン)の混合系と、173Yb(フェルミオン)-6Li(フェルミオン)の混合系を量子縮退領域にまで冷却することに成功した。これは、アルカリ原子とアルカリ土類様原子の組み合わせでは初めて実現した量子縮退混合系であり、スピン自由度を持った極性分子の研究に向けた非常に重要な進展であると考えている。また、波長1064nmのレーザーを用いて、光格子実験のためのセットアップを構築している。 フェッシュバッハ共鳴に関しては、ゼロ磁場でのYb-Li間散乱長の絶対値を実験から見積もり、並行して磁場系の開発も行った。1000G程度までの磁場を印加できるコイルを作成し、大電流を制御する回路等を準備して、予備実験として6Liの543Gにある細い共鳴(幅0.23G)を観測することに成功した。今後はYb-Li間のフェッシュバッハ共鳴を測定する予定である。誘導ラマン遷移は、中間状態として使用する電子励起状態分子の束縛準位を同定する必要があるため、1光子光会合で電子励起状態の束縛準位を調べた。実験では、6Liの励起状態に漸近するポテンシャルの分子の束縛準位を調べた。解離極限から70GHzまでの範囲に少なくとも3つ共鳴が存在することを見積もり、現時点で40GHzまでの範囲を調べたが、この範囲には強い共鳴が存在しないことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、超低温極性分子YbLiを用いてLattice-Spin Modelを実現し、量子スピン系の物理を研究することである。まず、研究の大前提となるYb原子とLi原子の量子縮退混合系を実現することができた。フェッシュバッハ共鳴は、1000G程度まで印加できる磁場系の開発を行い、予備実験として6Li原子のフェッシュバッハ共鳴の観測に成功している。また、誘導ラマン遷移の準備として、1光子光会合で電子励起状態の束縛準位を調べた。光格子実験のためのセットアップも作成中である。したがって、本実験に向けた実験系の構築が確実に進展しているため、達成度は(2)であると自己評価を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、現在構築中の実験系の開発をさらに進めていく。フェッシュバッハ共鳴は、理論研究者による計算では、共鳴磁場に対する共鳴幅が非常に狭いため、磁場を高度に安定化しなければ観測できない可能性がある。1光子光会合も引き続き進めていくが、同核分子の光会合と比較して、異核分子光会合のフランクコンドン因子は一般的に小さいため、観測のためには光格子に導入して高密度化する必要が生じる可能性がある。また基底状態YbLi分子の電気双極子モーメントは非常に小さいという理論計算結果が報告されており、対策としては、大きな電気双極子モーメントを持つ準安定励起状態を使用することを考えている。それでも分子を用いた実験が困難な場合には、原子混合系を用いた量子シミュレーションの可能性も考えている。例えば、光格子中のYbを固体中に局在する不純物、Liを固体中を遍歴する電子とみなして、固体中の不純物問題の量子シミュレーションが期待できる。
|