研究概要 |
窒化ガリウム(GaN)は直接遷移型のワイドギャップ半導体であり次世代高性能デバイス用材料として注目されている.その優れた物性を最大限に活用したデバイスの実現には基板表面を原子レベルに平坦化することが必要不可欠である.しかしGaNの機械的・化学的安定性から加工は困難であるため研磨技術の確立は達成されていない.そこで我々は,触媒作用を援用した新しい化学研磨法の開発を行いGaN基板の平坦化に成功した.既に,触媒として白金を用いることで直線的な原子ステップ構造を有する平坦なGaN表面を作製することに成功しており,他技術に対して優位な平坦化技術であることが示されていたが,実用上の観点から加工速度が不十分であることが課題であった.本加工法はエネルギー的に不安定な原子ステップ端から選択的に加工が進行するため,「ステップ端密度」と「ステップ端のエッチング速度」の積が加工速度となる.本年度はその両者の増加を目的とした取り組みを行った. 前者について,光電気化学(PEC)エッチングを援用することで改善を図った.PECエッチングはテラス上でも進行するためエッチピットが表面にランダムに形成され,触媒加工の起点となるステップ端の密度が増加したとみなせる.これにより加工速度を約10倍に向上させることに成功した. 後者については,未解明である加工原理の理解を足がかりとして,加工系の最適化を行うことで改善を試みた.基礎的な加工実験に加えて第一原理計算を用いた考察を行うことで,特に触媒・溶液間の反応経路を明らかにするとともに,加工速度改善に向けて有望と考えられる触媒表面の制御方法と,複数の触媒材料を見出すことに成功した.候補となる触媒材料には,薬液により容易に溶解可能なものも含まれており,白金触媒による表面の汚染問題も同時に解決されると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画として挙げていた「加工原理の解明」,「Pt研磨の加工速度向上」,「Pt代替材料の検討」の3点についていずれも有意な進展がある。加工原理については全容解明には至っていないものの,有望な代替材料を複数見出しており,加工速度向上のみならず,加工原理解明における有用な情報となりうる。
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今後の研究の推進方策 |
本加工法は窒化ガリウムのみならず,他の窒化物材料や酸化物材料も加工可能であることが明らかとなってきている.これらの材料も同様のメカニズムで加工が進行することが示唆される結果を得ているため,高速に加工可能な材料を用いて実験を行うことで加工時間の大幅な短縮をはかり,加工原理の解明を早期に行う.また,装置の改善を行うことで十分な加工再現性を実現し,信頼性の高い結果を得られるよう試みる.
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