研究課題
T2K実験ではJ-PARCの加速器により生成されたニュートリノを生成点直後の前置検出器と295km離れたスーパーカミオカンデで観測することにより未発見の電子ニュートリノ出現事象を探索している。実験は2011年3月の震災により中断したが、2011年12月にビーム試運転を開始し、2012年2月からは物理データの取得を再開した。T2K実験はニュートリノビーム方向のずれに非常に敏感であり、また前置検出器とスーパーカミオカンデにおいて異なった期間のデータが解析に用いられるため、全期間におけるニュートリノビームの方向と強度の安定性を保証することが不可欠となる。そのためニュートリノ検出器INGRIDによりニュートリノビームの方向と強度を監視している。当該年度においては、INGRIDによるビーム測定により、ビーム試運転の際にはニュートリノビームの性質が震災前と変わっていないことを実証し、物理データ取得の際にはニュートリノビームの方向や強度の安定性が要請を満たしていること保証してきた。さらに、従来の解析方法では、イベントパイルアップや光センサーのダークノイズの影響が顕著であることが判明したため、それらの影響を受けにくい新しい解析方法を考案し、その方法の優位性を実証した。またT2K実験の振動解析においてニュートリノ反応の不定性に起因する系統誤差が大きいため、ニュートリノ検出器Proton Moduleを用いてニュートリノ反応断面積の精密測定をしている。これまでProton Moduleにおいて観測されるイベントの大半がProton Moduleの外部から進入する粒子によるバックグラウンドであるという問題に直面していた。当該年度においてはProton Moduleにおけるニュートリノイベントを91%の純度で選択する解析方法を考案し、実用化した。さらに尤度法を用いて、特定のニュートリノ反応モードを選択する方法、選択されたイベントの飛跡の角度分布をシミュレーションによる予測分布でフィットすることにより反応断面積を求める方法を考案し、それらの実用性を実証した。
2: おおむね順調に進展している
T2K実験は震災により中断してしまったため、データ取得は当初の予定より遅れている。ただし本研究課題における解析については、課題となっていたProton Moduleにおけるバックグラウンドの除去方法や特定のニュートリノ反応モードの選択方法も確立され、INGRIDにおけるビーム測定も大きな問題はなく続けられており、おおむね順調に進んでいる。
INGRIDによるニュートリノビームの測定は、T2K実験においては不可欠な測定であり、今後も継続して行っていく。Proton Moduleにおけるニュートリノ反応断面積の測定は2012年の夏までの物理データを元に最初の物理結果を出す予定である。2012年秋以降は、INGRIDによるビーム測定とProton Moduleによる反応断面積の結果を反映させて、振動解析を行っていく予定である。
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http://www-he.scphys.kyoto-u.ac.jp/member/kikawa/