研究課題/領域番号 |
11J00750
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
村井 厚子 岐阜大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 血管肉腫 / シグナル伝達経路 / 細胞株 |
研究概要 |
血管肉腫は、血管内皮細胞由来の悪性腫瘍である。犬の血管肉腫は非常に悪性度が高く、容易に転移するが、有効な治療法は確立されていない。近年、腫瘍で特異的に発現している分子をターゲットとした、分子標的阻害薬を用いた治療が大きな成果をあげている。これは腫瘍細胞のみをターゲットとするため、副作用が少なく有効な治療法である。そこで本研究では、犬血管系腫瘍の悪性増殖に関与するシグナル伝達経路と分子を解明し、新たな治療法を確立することを目的とした。 まず、犬血管肉腫細胞株を7株作成し、この細胞株における増殖因子/受容体の発現を調べた。その結果、増殖因子と増殖因子とその受容体のmRNAの発現は、細胞株によって様々であった。VEGF-A、bFGF、HGF、IGF-I、およびPDGF-Bは増殖因子と共に受容体のmRNAも発現していたことから、これらの増殖因子はオートクリン/パラクリン機構で働く可能性が示唆された。 次に、様々な増殖因子、あるいは血清を細胞株に加え、WST-1法で増殖促進効果を検討した。その結果、1株では、ほとんどの増殖因子と血清下で増殖促進が認められた。3株では血清下で増殖促進が認められたが、増殖因子下はいずれも促進されなかった。その他の3株では、増殖因子と血清のいずれにも増殖促進を示さなかった。 続いて、血清刺激によって活性化される経路をウエスタンブロット法で検討した。その結果、血清による増殖促進には、Erk経路が関与していることが示唆された。一方、Aktの473位Ser(AktSer473)とその下流のelF4E-binding protein 1(4E-BP1)は、6株で血清に依存せず、恒常的にリン酸化していた。以上の結果から、犬血管肉腫細胞株ではmTORC2/Akt Ser473/4E-BP1経路が恒常的に活性化しており、犬血管肉腫の治療のターゲットとして有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血管肉腫を樹立し、その特徴付けを予定通り行うことができた。特に、細胞株で異常に活性化するシグナル伝達経路を特定できたことは、大きな収穫だったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今までの研究結果から、mTORC2/Akt/4E-BP1経路が治療のターゲットとして有用である可能性が示唆された。そこで今後、この経路に対する分子標的阻害剤を細胞株に加え、増殖抑制効果の有無や、シグナル伝達分子の変化を検討する。また、本研究室で樹立した細胞株をヌードマウスに接種すると、犬血管肉腫の腫瘍組織が形成されることが分かっている。そこで、この腫瘍組織を用いて、実際の生体での腫瘍退縮効果を検討する。
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