研究概要 |
犬血管肉腫(HSA)は、血管内皮細胞由来の悪性腫瘍であるが、有効な治療法は確立されていない。近年、腫瘍で特異的に発現している分子をターゲットとした、分子標的阻害薬を用いた治療が大きな成果をあげている。そこで本研究では、犬血管系腫瘍の悪性増殖に関与するシグナル伝達経路と分子を解明し、新たな治療法を確立することを目的とした。 昨年度までの研究で、HSA細胞株を7株作成したところ、Aktの473位Ser(Akt Ser473)とその下流のeIF4E-binding protein1(4E-BP1)は、6株で血清に依存せず、恒常的にリン酸化していた。これより、HSA細胞株ではmTORC2/Akt Ser473/4E・BP1経路が恒常的に活性化しており、HSAの治療のターゲットとして有用であると考えられた。そこで本年度は、この経路に対する分子標的阻害剤の細胞増殖に対する効果を、WST-1法とウエスタンブロット法で検索した。 HSA細胞株に,PI3K阻害剤のLY294002を加えたところ、全ての細胞株で容量依存性に細胞増殖が抑制され、PI3K/Akt/mTOR経路のタンパクのリン酸化も低下した。一方、mTORC1阻害剤のrapamycinでは全株でmTORC1のリン酸化が低下したが、細胞増殖は3株のみで抑制された。これらの細胞株では、4E-BP1のリン酸化が低下しており、そのうち2株ではAkt Ser473のリン酸化も低下していた。これらの結果より、HSA細胞株の細胞増殖は、mTORC1に依存しない、mTORC2/Akt/4E-BP1経路によって制御されている可能性が示唆された。また、自然発生HSAにおける同経路の活性を免疫染色で検討したところ、外科的切除されたHSA37例中、約80%のHSAで、p-Akt Ser473、p-4E-BP1 Thr37/46、eIF4Eの中等度から高度の発現が認められた。この結果から,自然発生HSAではmTORC1とは別に制御された、mTORC2/Akt/4E-BP1経路が活性化していることが示唆された。以上の結果から、本研究で樹立したHSA細胞株と自然発生のHSAでは、mTORC1に依存しない、mTORC2/Akt/4E-BP1経路が活性化しており、治療のターゲットとして有用である可能性が示唆された。
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