研究課題/領域番号 |
11J00752
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入谷 匠 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 格子量子色力学 / 閉じ込め / カイラル対称性の自発的破れ |
研究概要 |
クォークの重要な非摂動的性質としてカイラル対称性の自発的破れと閉じ込め現象があげられるが、この両者の関係を解析することは困難である.そこで、この2つの非摂動的性質を同時に解析するための新しい手法の開発を格子量子色力学の菅沼・権業らと行った.この研究ではカイラル対称性の破れにDirac演算子のゼロ固有値状態が重要であることに着目し、クォーク間のポテンシャルをDirac演算子固有状態で展開することを定式化し、加えて数値計算も行った.研究の結果、たとえゼロ固有値近傍の状態を取り除き、カイラル対称性が有効的に回復した状態であっても、閉じ込めポテンシャルが依然として存在していることが明らかになった.これは、量子色力学において、カイラル対称性と閉じ込めが直接には相関しないことを示唆しており、例えば量子色力学の相構造において閉じ込め相であるがカイラル対称性は回復しているような相が出現する可能性も示唆している. また、閉じ込めに重要な自由度としてCoulombゲージでのFaddeev-Popov演算子の固有状態に注目し、その非摂動的性質について研究した.Faddeev-Popov演算子のゼロ固有値近傍の状態数密度が自由場の場合よりも増加することが、閉じ込めに強く関係すると考えられている.その非摂動的性質と量子色力学真空との関係、特にエネルギースケールとの関連について格子量子色力学を用いて解析した.具体的には、グルーオンの低運動量・高運動量成分をそれぞれ取り除き、固有状態の応答を数値的に調べることにより、エネルギースケールとの関係を研究した.その結果、低エネルギー領域の物理と閉じ込めに重要なFaddeev-Popov演算子の固有状態の性質は強く相関していることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クォークの重要な非摂動的性質であるカイラル対称性の自発的破れと閉じ込めを同時に扱い、その関係を議論することのできる新しい格子量子色力学の解析手法の開発ができた.また、その手法を用いて実際に格子量子色力学の数値計算を行い、両者の直接の関係を調べた.そして、カイラル対称性が回復した状態であっても、閉じ込めの性質は残るという非常に興味深い結果を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
新たに開発した格子量子色力学の諸量をDirac演算子固有状態で展開する解析手法を、既に行ったクォーク間ポテンシャルだけでなく他の非摂動的な物理量の計算に応用する.まずは、閉じ込めの秩序変数であるPolyakov loopの解析があげられる.特に、有限温度での振る舞いについて研究を行う.また、Coulombゲージでの閉じ込めに重要な自由度と考えられるFaddeev-Popov演算子固有状態に関しても、Dirac演算子固有状態での分解と同様の解析手法の定式化とその数値解析を行う.
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