研究課題/領域番号 |
11J00791
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 泰典 大阪大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 鉄二核タンパク質 / ヘムエリスリン / DcrH-Hr / 酸素結合能 / 酸素活性化能 / 疎水性空孔 / 変異体 / 機能改変 |
研究概要 |
本研究では、酸素結合タンパク質DcrH-Hrの活性中心である二核鉄配位サイトの改変を実施し、新規生体金属触媒の創製を目的としている。鉄二核中心を有するタンパク質にはメタンのC-H結合等の不活性結合を活性し、メタノールへと酸化するメタンモノオキシゲナーゼ(MMO)のような酸素活性化および物質変換能を有するものがある。直裁的かつクリーンな反応経路で不活性結合の酸素による活性化するMMOは非常に魅力的であるが、このタンパク質は大量発現できず、また、構造的な複雑性から取り扱いが難しい。そこで、鉄二核中心を有し、取り扱いの容易かつ大量発現可能なDcrH-Hrをタンパク質フラスコとして見立てて、鉄二核中心の第一配位圏を錯体化学的な知見に基づいて合理的に設計し、酸素結合能から酸素活性化能への改変に着手した。 一年目である本年度は各種作製した変異体の迅速な精製を可能にするため、His-tag融合タンパク質の大腸菌による発現および精製法を確立した。また、鉄二核中心近傍に位置するアミノ酸のうち、ヒスチジン118番をアスパラギン酸に置換した変異体、非配位性のイソロイシン119番を配位性アミノ酸残基であるヒスチジン、グルタミン酸へと置換した変異体等の改変タンパク質を作製した。野生型とアジドやフェノールとの結合モードが野生型と異なる事を明らかにし、違いが示唆されたI119E変異体について詳しく検討を行った。アジド付加体の紫外可視吸収とラマン分光測定を行ったところ、I119E変異体において導入したグルタミン酸のカルボキシラートが二核鉄に直接、または二核鉄の配位水分子に水素結合している可能性が示唆された。さらにこの変異体は過酸化水素を酸化剤、グアイアコールを基質とした酸化反応において、野生型にはない反応性を有する事を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目の計画であったタンパク質の調製を迅速にするHis-tag融合タンパク質の調製法を確立するとともに、野生型にはない酸化能を有する変異体の作製に成功した。しかし、その詳細な解析は十分に行えておらず、この点では計画から遅れている。しかし、二年目の研究計画であった二核鉄の他金属への置換法を確立することができた点では当初の計画より進行していると考えられることより、概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は野生型にはない酸化能を有すると考えられるI119E変異体について詳しく詳細な機能解析を行う。まずはその構造を得るためにX線結晶構造解析を行う。また、分光学的な手法を用いて様々な基質との酸化反応やその反応機構の解析を行う。反応中間体の同定とその機構に基づき、更なる活性中心への変異の導入、本年中に確立した他金属への置換を組み合わせ、機能の向上を図る。 この他の二核鉄の配位アミノ酸残基の変異によっても活性の向上が期待されるため、他の変異体の作製も同時に実施する。
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