研究概要 |
地球深部物質の電気伝導度・熱伝導率は、マントルの組成やダイナミクス、地球磁場の生成、伝津過程を理解する上での重要な物性値である。しかし、高圧実験において下部マントル以深の条件での電気伝導度・熱伝導率測定は試料サイズが微小であるため困難を伴う。そのため、下部マントル以深条件での物質の電気、熱物性値測足例はほとんどなかった。私はダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置を崩いた最下部マントルに相当する温度圧力条件での電気伝導度と熱伝導率の測定技術を世界で初めて確立した。その技徳を用いて平成23年度に行った成果の一つを以下に記す。 「岩塩型構造を持つ酸化第一鉄(FeO)の温度圧力誘起金属転移(Ohta et al., 2012 Physical Review Letters)」 FeOは地球内部に多くそして、広範囲に存在する物質である。単に、下部マントルの主要構成鉱物である(Mg,Fe)Oフェロペリクレースの端成分であることの他に、これまでのマントル対流の結果としてマントル底部にFeOが多く存在しうることが示唆されている[例えば、Nomura et al., 2011Nature].また、溶融した鉄からなる外核にも酸素は無視できないほどの量が含まれていると考えられている。そのため、下部マントルと核の主要構成物質である(Mg,Fe)SiO_3ペロフスカイト相やフェロペリクレース、純鉄の他に、FeO単体の高温高圧下での構造や物性値を知ることは地球の組成やダイナミクスを知る上で非常に重要な研究である。 FeOは常温常圧下では岩塩:型構造の絶縁体である。衝撃圧縮実験により約70万気圧で不連続な密度の変化があることが見いだされ、さらに密度上昇後のFeOは金属的な性質を持つことが報告されていた[Knittle and Jeanloz, 1986]。しかし、FeOの結晶構造と電気的性質の同時測定が行われた例はなくFeOの構造変化と電気的性質の関係は未だよく分かっていなかった。 私と共同研究者は高温高圧を発生した状態でのFeOの電気抵抗と結晶構造の同時測定を行った。その結果、岩塩型構造のFeOはその結晶構造を保ったまま、70万気圧、1900ケルビンで金属相へと転移することを発見した。共同研究者による理論計算の結果、この金属転移はこれまで知られていた絶縁体-金属転移とは異なるメカニズムで起こっていることがわかり、地球科学のみならず物性物理の分野にも大きなインパクトを与える成果となった。
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