研究概要 |
太陽の100万倍一1億倍以上の質量をもつ超大質量ブラックホールは、我々の銀河中心だけでなく赤方偏移が7を越えるような宇宙初期にも存在する事が観測から明らかになってきた。このようなブラックホールの起源を理解する事は、同時に銀河の形成や進化を理解することにも繋がる重要なテーマである。特に、宇宙初期の超大質量ブラックホールは短時間で形成される必要があるため、その起源に理論的に強い制限が加わる。そのような背景の下で、宇宙初期に形成される超大質量星(太陽の10万倍以上の質量を持つ星)の形成過程の解明が重要となる。 今年度はそのガス雲の崩壊により形成される原始星の進化・成長について調べた。ガス雲の収縮が進んで行くと中心ではやがて原始星が形成されて、その後原始星は周囲のガスを急速に(>0.1Msun/yr)獲得して成長していく。そのような急速なガス降着で原始星が進化していく場合、原始星は通常の主系列星とは異なる構造に進化することが先行研究により分かってきた(Hosokawa, Omukai & Yorke 2012)。ただし、この計算ではガス降着が安定に続くと仮定していたため、原始星が進化の途中で不安定になり質量放出を起こすかは非自明であった。原始星が安定に成長できるかどうかは、SMBHの種BH形成の観点から避けては通れない問題である。 そこで、私は星の脈動不安定が原始星の成長を妨げる可能性を調べた。共同研究者である細川氏が先行研究で計算した原始星の内部構造(M〈1000Msun)のデータを用いて、星の脈動不安定性の解析を行い質量放出率の見積もりを行った。その結果、降着率が高い場合(~1.0Msun/yr)は、表面付近でのヘリウム電離層における輻射輸送の効果(カッパ機構)により星は不安定化することが分かった。さらに、脈動不安定な原始星からの質量放出率は~10-3Msun/yrと見積もられ、質量放出は原始星の進化にはあまり影響を与えず、原始星は超大質量まで安定に成長できることを明らかにした。
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