研究課題/領域番号 |
11J00842
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川口 維男 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 非線形シグマ模型 / 可積分模型 / AdS/CFT対応 |
研究概要 |
研究の背景: 近年のAdS/CFT対応の研究において、その可積分構造は重要な役割を果たしてきた。実際、対称性や可積分性といった少数の数学的な要請から決定されたスピン鎖模型から、ゲージ理論あるいは弦理論における摂動計算の結果を再現できる。 研究の内容: この現状を踏まえ、本研究ではAdS/CFT対応の可積分変形を考えた。昨年度に引き続き、squashed S3上を運動する非線形シグマ模型について議論した。 昨年度、我々は「このシグマ模型の可積分構造には有理型および三角型の二種類の記述が共存する」事を示した。有理型の記述を反映し、この理論にはヤンギアン対称性が存在する。一方で、三角型の記述を反映した無限次元対称性(量子アファイン対称性)は議論していなかった。我々は量子アファイン対称性の電荷を具体的に構成し、二種類の可積分構造のアンバランスを解消した。 また、二種類の可積分構造の間の関係も議論した。シグマ模型の可積分性はラックス対により特徴づけられ、その積分形はモノドロミー行列と呼ばれる。系の無限次元対称性はモノドロミー行列をスペクトルパラメータについて展開する事でも得られる。このシグマ模型には有理型・三角型の各々の記述に伴うモノドロミー行列が存在する。上述のヤンギアン対称性および量子アファイン対称性が、有理型または三角型のモノドロミー行列の一方のみから得られる事が分かった。これに基づき、我々は有理型および三角型のモノドロミー行列が(スペクトルパラメータ間の適当なマップを用いて)ゲージ変換で移り合う事を示した。またスペクトルパラメータのリーマン面に対する幾何学的な描像を与え、三角型の記述は有理型の記述の貼り合わせである事も示した。 これに却えて、3次元Schrodinger時空を標的空間とする非線形シグマ模型に関する研究にも進展があった。昨年度の研究では、warped AdS3の場合と同様に、二種類の可積分構造を持つことが示されていた。今年度は、それぞれの可積分構造に付随した無限次元対称性の構成、および二種類の可積分構造の間の関係を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度に明らかとなったhybridな可積分構造についての理解がより進んだため。三角型および有理型の二種類の記述におけるラックス対およびモノドロミー行列がゲージ変換の下で等価であることが示された。また、スペクトルパラメータのリーマン面に対する幾何学的描像に基づき、三角型の記述が有理型の記述の貼り合わせに分解されることも示された。従来の研究では、本研究で明らかとなったような異なるクラスの可積分模型が等価である可能性は見過ごされてきた。本研究がきっかけとなり、今後類似の可積分構造をもった模型が発見されることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
warped AdS3上のシグマ模型に対して有理型の記述に基づいた解析を進める。本研究によって三角型の記述も有理がtの記述へと帰着されることが分かった。有理型の記述は三角型のそれよりも扱いが容易であり、より多くの解析手法が確立されている。これによりwarped AdS3/dipoleCFT2対応との関係を議論したり、Kerr/CFT対応の背後にある構造を可積分性の立場から探ることを目的として今後の研究を進める。 またSchrodinger時空上のシグマ模型のhybridな可積分構造および無限次元対称性に関する理解も深まった。これら、新たに明らかとなった構造に基づき、AdS/CFT対応を用いた物性系への応用についての研究も行う予定である。
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