銀河系ハローの星は、総じて年齢が古い。こうしたハロー星の運動は、銀河系形成初期から大きく変化していないと考えられており、その軌道を求めることで、銀河系形成時の力学状態が推定できる。一般に、個々のハロー星の軌道を求めるためには、位置と速度の6次元情報が必要である。ところが、遠方のハロー星については、「接線速度(2次元)」が十分な精度で観測されておらず、「位置(3次元)」「視線速度(1次元)」のみ観測データが得られている。そこで我々は、多数の遠方ハロー星についてこの4次元情報を集め、遠方ハロー星の軌道形状の分布を統計的に推定する手法を考案した。 さらに我々は、水平分岐星と呼ばれる銀河系に広く分布する明るい星の観測データに対してこの手法を適用し、遠方のハロー星の軌道形状の分布を推定した。その結果、「遠方ハロー星のうち、金属量の少ない星は、丸い軌道のものが多い」「遠方ハロー星のうち、金属量の多い星は、細長い軌道(動径軌道)が多い」ことが判明した。 ところが、過去の銀河系形成シミュレーションでは、「遠方ハローでは、金属量によらず細長い軌道が多い」と予言していた。私の結果は「金属量の多いハロー星については計算機シミュレーションは正しい予言を行っている」ことを示した。一方、私の結果は「金属量の少ないハロー星の由来は、これまでの計算機シミュレーションでは考慮されてこなかった物理過程が重要であった可能性」を示唆しており、今後の銀河系の形成理論に大きな影響を与えるものと考えられる。
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