研究概要 |
植物細胞の核は光に応答して細胞内で存在場所を変える"光定位運動"をする.シロイヌナズナの葉に対して暗処理を行うと表皮細胞および葉肉細胞の核は細胞底面に定位し,強光を連続照射すると核は一時間以内に細胞側壁に移動する.しかしながら核光定位運動の生理学的役割についてはわかっていない.そこでは我々は"核は強光を避けるために動く"のではないかと考え,これを実験的に証明することを行った. 強光を避ける理由として紫外線の存在が挙げられる.地上に到達する太陽光には紫外線が含まれており,特にUV-B(280-320nm)と呼ばれる,より短波長側の紫外線が核DNAに重大な損傷(シクロブタン型ピリミジンダイマー,6-4光産物の生成)をもたらす.そこで,核定位とDNA損傷との関係について調べたところ,側壁への核定位率とDNA損傷量との間には負の相関関係が成り立つことがわかった.すなわち,核が側壁に定位することでDNAへのダメージを抑制できることを意味している.さらに,DNA損傷により引き起こされる細胞死について核定位との関係を調べたところ,DNA損傷の場合と同様に,核が側壁に定位すると細胞死が起こりにくいことが分かった.以上の結果は核光定位運動が紫外線を含む強光を避けるための防御機構として有効に働くことを示している.一方,核は光の有無により細胞の底面と側壁を行き来するが,これは弱光下で生育させた個体で見られる定位様式であり,比較的強い光の下で育てた個体では,ほとんどの核は常に側壁に定位するという現象も見出された.この結果は核の定位場所が生育時の光環境に大きく依存することを示している.弱光順化個体では強光に曝された場合にのみ核を側壁へ定位させるのに対し,強光順化個体では常に強い光に曝されているため,光が当たる前に核をあらかじめ側壁へ定位させておくという,興味深い戦略をとっていると考えられる.現在,以上の研究成果を論文にまとめている.
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