研究課題/領域番号 |
11J01064
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
八重樫 徹 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 自由意思 / 現象学 / 倫理学 |
研究概要 |
平成23年度は、道徳的判断と動機づけに関するエトムント・フッサールの理論を中心に研究した。また、同様の主題に関する現代英語圏の倫理学と行為論における議論と、フッサールの理論を比較し、彼がどのような立場をとっているのかを明確化する作業を行った。 具体的内容としては、まず1、フッサール現象学の側では、伝統的な自由意志の問題に対するフッサールのアプローチはあまり顧みられてこなかったが、彼の超越論的観念論という形而上学枠組みが同問題に対して興味深い帰結をもつことが明らかになった。超越論的観念論の眼目は、意識と世界を互いに独立した存在領域とみなさない点にある。こうした立場をとるなら、自由意志の問題に対しても、決定論と自由意志が両立するか否かという問いから出発する従来の論争とは異なるアプローチが開かれるはずである。 次に、2、現代英語圏の自由意志をめぐる論争については、形而上学・心の哲学・行為論といった様々な分野の知見が、互いの関係が整理されないまま動員されている点に問題があることが明らかになった。また、自由意志の問題にアプローチする際には、倫理学ないし道徳心理学における道徳的判断と動機づけの理論も顧慮する必要があるにもかかわらず、そうした顧慮が十分になされているとは言い難い。特に、倫理学において伝統的に議論の的となっている意志の弱さの問題を、自由意志の問題と接続することによって、より具体的で豊かな議論が展開できるはずである。こうした考えのもと、自由意志論と倫理学・道徳心理学の双方にまたがる文献を収集し、研究をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自由意志をめぐる現代の論争が、どのような問題点を抱えており、またフッサール現象学にもとづく同論争へのアプローチがどのような形をとるべきかがある程度明らかになったため。
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今後の研究の推進方策 |
「9.研究実績の概要」で述べたように、フッサールの超越論的観念論は、自由意志の問題に対する新たなアプローチを可能にする。このフッサール的アプローチを具体的に展開していくことが次年度以降の課題である。その際、道徳的判断や意志の弱さといった事象に関する倫理学や道徳的心理学の理論を、自由意志をめぐる議論に接続することで、議論の具体化・豊饒化が期待できる。したがって今後は、超越論的観念論を背景としたフッサールの倫理学・道徳心理学を援用しつつ、自由意志への倫理学的アプローチを練り上げていきたい。
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