研究課題/領域番号 |
11J01064
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
八重樫 徹 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 自由意志 / 現象学 / 倫理学 |
研究概要 |
今年度は、自由意志に関する両立主義をフッサール現象学の立場から擁護するという課題に取り組んだ。この課題を遂行するにあたって、1、フッサールの後期倫理思想における自由意志の問題へのアプローチと、2、カント主義的倫理学における同様の問題の取り扱い、そして両者の接点を見定めることを主なテーマとして研究をおこなった。1、フッサールの後期倫理思想においては、自由の問題が倫理学の問題として、自律や責任といった概念との関連の中で問われる。注目すべきなのは、その際にカント的なモチーフが重要な役割を果たしているということである。理性がいかにして実践的でありうるか、つまり具体的な状況における意思決定に理性がいかにして影響をおよぼしうるのかを問うことが、自由の可能性を問うことにほかならないと考える点で、後期フッサールの自由の問題へのアプローチはカント的だと言える。また同時期のフッサールは他方で、人間的行為者のアイデンティティの重要性を強調してもいる。たとえば、人は客観的な観点から物事を評価するだけでなく、何かに他とは比較不可能な価値を見出すことがある。こうした特殊な評価的態度をフッサールは「愛」や「使命」と呼び、人間のアイデンティティの源泉とみなしている。こうしたフッサールの後期倫理学から見えてくるのは、フッサールがあくまで人間的行為者の視点から、アイデンティティをもった行為者の自律の問題として、自由の問題を捉えているということである。2、カント主義的倫理学においては、行為者のアイデンティティを道徳的義務の源泉とみなすクリスティン・コースガードの理論が、とりわけ後期フッサールの倫理思想と強い親近性をもっている。こうした現代のカント主義的倫理学と共通の文脈に上述のフッサールの議論を位置づける作業を通じて、非両立主義対両立主義という現代の自由意志論の問題設定に囚われない仕方で自由意志の問題にアプローチする可能性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カント主義的倫理学との比較によって、フッサールによる自由の問題へのアプローチの特徴的な点が明らかになったため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の三年目にあたる平成25年度は、自由意志の問題に対する現象学的アプローチをメタ倫理学の問題系に接続することが課題となる。だが、今年度の研究においてその重要性が明らかになった行為者のアイデンティティの問題が、メタ倫理学においてどのような位置を占めうるのかは必ずしも明らかではない。そのため、アイデンティティをめぐる現代の議論も参照しつつ、その位置づけについて考察することが重要となる。
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