研究課題/領域番号 |
11J01118
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 康彦 京都大学, 理学研究科, 学振特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2011 – 2013-03-31
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キーワード | Jiang-Su環 / 分類定理 / 自己同型 / 接合積 |
研究概要 |
平成24年度交付申請時には「研究の目的」の中で「Jiang-Su環を吸収する作用素環の特徴付け」を目標の一つとしてあげていた。既に23年度ではこの目標を、ゆるい条件下で達成する事ができていた。この事を踏まえ、今年度はこの結果を更に拡張し、仮定していた条件を広く拡張する事に成功した。この拡張は、有限個の点で得られていた定理を一般のコンパクト有限次元距離空間へ拡張するという非常に大きなものである。 これに加え24年度は、この特徴付け定理を更に推し進め、安定有限従順C*一環の分類定理を自然な条件下で完成させた。またこの分類定理の研究過程において、「分解階数」、「核型次元」、「トレース階数」と呼ばれる3つの作用素環の次元を特徴付け、これらを低次元に抑える方法を開発した。この研究により、W. Winter, J. Zacharias, H. Linらがそれぞれ論文の中で上げていた、これらの次元に関する問題を本質的に解く事ができた。当初の「研究の目的」では自己同型のみを分類する計画でいたが、幸運にもその母体とも言えるC*-環自身の分類定理が成功した形となり、当初の研究目標を大きく上回る結果と言える。 「研究実施計画」の中で上げていた各研究集会で上記の結果を講演し、作用素環分類理論の中でも本研究による結果が特に重要なものであると宣伝する事ができた、それを受け海外の研究者から分類定理に関する有益な情報を得た。また、24年度は5月中旬より、9か月間アメリカ、Oregon大学において長期滞在を行い上記の研究に関する進展を得る事ができた。 Oregon大学では作用素環分類理論の専門家であるN. C. Phillips、 H. Lin両氏がおられ、アメリカにおける作用素環論に関する研究拠点の一つとなっている。特に平成24年度は、毎年開かれている「West Coast Operator Algebra Seminar」がOregon大学で行われ、この研究集会でも講演の機会を得る事ができた。当初の研究計画通り、特別研究員奨励費の全てをこれら研究集会の参加旅費に当て、そこで得られた情報を手掛かりに上記の結果を得る事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書ではJiang-Su環を吸収する環上の自己同型の分類を証明するとしていたが、その自己同型を考える上で必要な環自身の分類定理を完成させる事ができた。その際、W.Winter、J.Zacharias、H.Linらが上げていた作用素環の次元に関する未解決問題を統一的に解いた。これらの定理は平成24年度の研究計画を大きく上回る結果といえる。また、平成23年度に得ることができていた定理を大きく拡張することにも成功した。この成果により、私が研究を進める上で導入した(SI)性と呼んだ条件が、ごく自然で正当な条件であると示すことができた。それと同時により一般的な条件下での拡張が望める事を示唆し、現在進められている作用素環分類理論が自然な方向性である証拠を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究目的であげていた「自己同型分類定理を群作用に拡張して完成させる事」、「A.Toms-W.Winter予想の完全解決」、「24年度に得られた結果を更に抽象的な数学的対象へ広げる事」を主な研究課題とする。具体的に群作用の分類理論については、既に得られていた結果を24年度の分類定理に合わせ修正し、この群作用分類定理を自然な形で証明する。 群作用分類理論については、経験的に現在得られている技術で対処可能であると予想できるので1技術的な問題点は無いと期待できる。Toms-Winter予想の完全解決については、我々が得た分類定理が適応できない環を考える必要があり、これらに対する新たな技術が必要となると予想される。そのため、それらの特異な環の構成方法を与えたA.Toms,M.Rordam,D.Kerrらと直接情報交換を行い、これら個々の構成方法から統一的な理論が得られないか模索したい。先行結果である彼らの技術を我々の研究に適応させ、新たな技術を確立したいと計画する。
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