研究概要 |
私の研究対象は3次元多様体のトポロジーで、トポロジーという柔らかい'構造を幾何構造という固い構造を通じて調べている。幾何構造は基本群の表現で記述できるので、そのような表現全体を調べる事が重要になる。また2次元多様体(曲面)の基本群の表現も重要で、これは複素解析や代数幾何などの分野でも重要な研究対象となっている。 昨年度は曲面の基本群のPSL(2,C)表現の空間の座標系に関する論文を執筆した。昨年度末から今年度にかけてはこれを高次元の表現(PSL(n,C)表現)に拡張する研究を行った。これは近年活発に研究されている高次タイヒミュラー空間と関連する。具体的には2次元の表現におけるFenchel-Nielsen座標をn次元の場合に拡張した。昨年度の論文の手法にFock-Goncharovによって導入された座標を適用する事で初等的で自然な座標系が構成出来たと思う。この研究を通して高次タイヒミュラー空間やその空間への写像類群の作用などに興味を持つようになり、8月にイリノイ大学で行われた研究集会に参加し様々な研究者と交流できた。PSL(n,C)は様々な幾何に関連したリー群を含むので,その場合の幾何学的な意味について現在研究を進めているところである。この研究においてコンピュータを用いた展開写像の可視化を行った(一部を京大数理研の講究録として出版予定)。 一方で2012年はAgolがThurstonの一連の予想を解決するという、3次元多様体論にとって激変の年であった。この最近の潮流に関して2日間の解説を行い、講演のノートを作成した。このノートは私のウェブサイトから利用可能である。まだ世界的にも解説が少ない状況で日本語でノートを残せた意義は大きいと思う。自分の研究対象に照らし合わせても、表現の空間の極限として現れる非正曲率空間の幾何の手法が学べた事は大きかった。 その他、以前執筆した論文の出版のための校訂を行った。
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