本年度の主たる課題は、南宋から元代にかけて出版された各種版本の調査・収集、およびそれらのうち特に注釈附き資料の内容整理であった。 前者について言えば、これまで国内外で実見した諸版本の情報整理ができ、また上海図書館と国立公文書館で新たな調査を行えた。特に公文書館では宋元の諸刊本を実見したのみならず、注釈附き版本である『後山詩注』の全画像データを入手したことは、研究の進展に極めて有用な成果であった。 後者については、陳元龍集注『詳註周美成詞片玉集』について、その注釈をめぐる諸問題の考察を中国語の論文としてまとめ、二〇一一年九月に中国河南省開封にある河南大学で開催された第七届中国宋代文学国際学術検討会で口頭発表を行った。これによって、中国本土の研究者から様々な反響や意見を得ることが出来ただけでなく、中国文学研究者として彼らに認知されたことが、大きな収穫であった。なお、この口頭発表での成果を踏まえ、日本語で加筆修正した論文が、宋代詩文研究会編『橄欖』第十九号に掲載されることになっている。 さらに同年十月末には、東山之會(近畿圏の中国文学研究者による定期的な学習と研究発表の場)において、宋元期の詩詞注釈本の注釈に見える共通注文について、具体例とその傾向性を中心とした簡単な報告を行った。この発表後の質疑応答では、本研究の意義を再確認すると同時に、新たな問題点に気づかされ、今後の研究を進めていく上での大きな示唆を得ることができた。
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