研究概要 |
大豆や大豆加工製品に多く含まれるフラボノイドであるイソフラボン類は抗がん作用や抗炎症作用等さまざまな生理作用を有することが報告されているが、大豆イソフラボンの抗アレルギー作用に関する研究は乏しい。高親和性IgE受容体(FcεRI)はIgE仲介性のアレルギー反応において中心的な役割を担っており、抗アレルギー薬の重要なターゲットの一つである。FcεRIを発現し、抗原-IgEシグナルにより炎症性ケミカルメディエーターを放出する細胞として知られるマスト細胞および好塩基球のFcεRI発現に及ぼす大豆イソフラボンの影響について検討した。その結果、主要な大豆イソフラボンであるダイゼインおよびゲニステイン、ならびにダイゼインの腸内代謝産物であるエクオールはマウス骨髄由来の初代マスト細胞およびヒト好塩基様細胞株KU812の細胞表面上FcεRI発現量を有意に低下させることを見出した。本作用のメカニズムについて検討したところ、これら全てのイソフラボンはFcεRIの構成鎖であるFcεRIα鎖のmRNA発現量を低下させた。また、ゲニステインはFcεRIβ鎖mRNA発現量を低下させたのに対し、ダイゼインおよびエクオールはFcεRIγ鎖mRNA発現量を低下させたことから、フラボノイド骨格A環5位の水酸基が作用形態の特異性に関与していることが示唆された。一方、これまでにERK1/2の阻害剤がFcεRI発現を低下させることが報告されていたが、大豆イソフラボンのFcεRI発現量低下作用にはERK1/2は関与しないことが示された。大豆イソフラボンはその化学構造が女性ホルモンであるエストロゲンに類似しており、エストロゲン受容体(Estrogen receptor:ER)と結合活性を有することから、イソフラボンのFcεRI発現低下作用におけるERの関与について検討した。KU812細胞において、エストロゲンの一種であるβ-estradiolはFcεRIの発現量に影響を与えなかったこと、の特異的拮抗薬であるICI182,780は大豆イソフラボンのFcεRI発現量低下作用に影響与えなかったことから、本作用はER非依存的であることが示された(Yamashita et al,J.Agric Food.Chem.2012,60,8379-8385)。 近年、ER非依存的なイソフラボンの生理作用がいくつか報告されているが、その作用機序は全くわかっていない。イソフラボンのER非依存的な生理作用に関わる遺伝子をがん細胞増殖抑制作用を指標にスクリーニングしたところ、PAP associated domain containing 5(PAPD5)を同定した。PAPD5はポリAポリメラーゼの一種であり、核小体低分子RNAやリボソーマルRNAにポリA鎖を付加することでこれらの分子の安定性を調節することがわかっている。 PAPD5の活性化に及ぼすイソフラボンの影響について検討したところ、イソフラボンはPAPD5を活性化し、PAPD5の基質である核小体低分子RNAにポリAを付加することを見出した。
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