研究課題/領域番号 |
11J01308
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
辻本 学 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 銅酸化物高温超伝導体 / 単結晶 / ジョセフソン効果 / テラヘルツ波 / テラヘルツイメージング |
研究概要 |
本研究の目的は、銅酸化物高温超伝導体Bi_2Sr2_CaCu_2O_<8+δ>の単結晶に内在する固有ジョセフソン接合におけるジョセフソン放射現象の機構解明と、本現象を利用した小型テラヘルツ波発振デバイスの開発である。研究代表者の所属する研究グループでは浮遊帯域溶融法により育成したBi_2Sr_2CaCu_2O_<8+δ>単結晶をフォトリソグラフィーや物理エッチングを組み合わせて微細加工することでデバイスを作製し、その動作特性を様々な手法を用いて測定している。 研究代表者は、特に印加電圧と発振周波数の比例関係、いわゆる交流ジョセフソン効果の観測を通じて、実施計画にも挙げた周波数チューニング性能の詳細な評価を行った。その結果、抵抗状態にある固有接合数を実効的にバイアス制御することで発熱を制御し、これまで報告されていた数%の可変周波数範囲を大幅に拡張し、最大で±25%のバイアスチューニングすることに成功した。この結果はQ値の大きな外部共振器の導入による出力増強の可能性を強く示唆するため、デバイス応用上大変重要な実験事実である。得られた結果は昨年8月に中国で開かれた国際学会(LT26)と本年3月のアメリカ物理学会などで公表し、主要な内容をまとめた論文は科学雑誌Physical Review Lettersにおいて本年3月に掲載された。 上述の基礎研究に合わせてデバイス応用に関する研究も同時に行い、デバイスを実際に組み込んだ透過型テラヘルツイメージング装置の開発にも着手した。実際、本装置により様々な物体の非破壊テラヘルツ透過像の撮影に成功し、開発が遅れているテラヘルツ帯の有効な電磁波源としての利用可能性を広げた。本イメージング装置で得られた結果と測定系に関する内容をまとめた論文は既に科学雑誌に投稿済みであり、次年度中の掲載を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の「研究の目的」で挙げた二つの目的、すなわち「放射出力およびチューニング特性の向上」と「固有ジョセフソン発振器によるテラヘルツイメージングシステムの開発」の二つを並行して進めることができ、基礎研究と応用研究を結び付けることができた。これらの成果は数回の研究学会や科学雑誌で公表し(イメージングシステムに関する論文は投稿の段階)、国内外の同分野の研究者と情報を共有した。課題採用の一年目に期待した通りに研究を推し進めることができたため、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後も固有接合からのジョセフソン放射現象に関する基礎研究と応用研究を同時に進め、相互にフィードバックさせることで現象の機構解明とデバイスの実用化を目指す。具体的には、これまで調べられてきた単一デバイスをアレー化することで高出力化を目指す試みや、磁場印加時における系の量子力学的振る舞いの観測などに興味がある。また、固有ジョセフソン接合が高温超伝導に普遍な概念であることから、本研究で対象としているBi_2Sr_2CaCu_2_<8+δ>以外の物質で同現象が観測できるのかという問題も提案されている。こうした他の系との比較や、コンピュータを使った数値シミュレーション解析といった理論的なバックアップは、共同研究によって進めていく必要がある。そのためにも、幅広い研究分野のエキスパートとの交流や意見交換を続けてゆきたい。
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