ゲノムへの遺伝子組込みは、遺伝子治療やiPS細胞作製など、幅広く応用される。しかしながら、通常、組込み位置はランダムであるため、内在遺伝子付近への組込みにより、癌化等の変異を誘発する危険性がある。本研究ではこの危険性を低減するために組込み位置選択性を向上することを目的としている。 前年度においては、標的配列を有するプラスミドDNAへの組込みにおいて、位置選択性を45倍向上可能であることを示した。しかしながら、遺伝子治療やips細胞作製においてはプラスミドDNAではなくゲノムに遺伝子を組込む必要があり、プラスミドDNAとゲノムではサイズや核内タンパク質との相互作用等に大きな違いがある。したがって、より厳密な評価のためには、組込み先のDNAとしてゲノムを用いて検討を行う必要があった。 そこで本年度は、ゲノムへの組込みにおいて、位置選択性が向上可能であるかを検討した。細胞内へ導入したDNAを、配列選択的DNA結合タンパク質を用いてゲノム上の標的配列に固定した後、組込みを行う酵素であるphiC31インテグラーゼによって導入DNAをゲノムへ組込み、その組込み位置選択性を評価した。また、DNA結合タンパク質による標的配列への固定に十分な時間を検討するため、DNA結合タンパク質発現ベクター導入からphiC31インテグラーゼ発現ベクター導入までに1日または2日の時間差をおいた。加えて、組込まれるDNAを標的配列に固定するための、結合配列数が与える影響についても評価するため、0から66までの異なる数の結合配列をもつDNAを作製し、用いた。 その結果、phiC31インテグラーゼ発現ベクター導入までの時間差が2日間、結合配列数4~18において、標的配列近傍への組込みが向上し、最大で対照群の26倍に達した。以上のように、本研究はゲノムへの組込みにおける位置選択性を大きく向上することに成功した。
|