研究課題/領域番号 |
11J01357
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岡本 美里 金沢大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ウメマツアリ / 単為生殖 / 性投資戦略 / 繁殖様式 / 産卵戦略 / 女王アリ / 雌雄間コンフリクト / 性投資配分 |
研究概要 |
本研究では、雄は父親の、雌(新女王)は母親(女王)のみの遺伝子を受け継いだ特殊な繁殖様式を持つウメマツアリVollenhovia emeryiに注目し、両親の間で生じる、次世代の最適な性投資配分をめぐる対立が、産卵時や成虫時の雌雄繁殖虫生産に与える影響をたしかめた。血縁度のみを考慮した場合、母親である女王は雌に、父親である雄は雄に偏った性投資配分が適応的である。そこで、1)女王が各カースト卵の生産にどれだけ投資をするのか、2)血縁要因以外に、各カースト生産に与える要因は何か、3)卵・成虫ステージの性投資配分は、どのカーストにとって最適な値が実現されているのかを確かめた。その結果、雄卵とワーカー卵のみを生産している女王や、ワーカー卵のみを生産する女王が50%以上存在し、女王の産卵パターンは血縁要因だけでは説明できないことが明らかになった。新女王卵や雄卵生産に影響する要因を詳しく解析した結果、コロニー内の女王が少ない状況下では新女王卵が多く生産されていたが、雄卵は女王数や新女王卵数とは無関係に生産されていた。雄卵生産の特徴をさらに詳しく調べた結果、生産するワーカー卵数が多い女王ほど、雄卵を高頻度で生産しており、その割合は全卵数め約5%を占めていた。本種は巣内交尾をする種であるにも関わらず、雄卵のみを生産するコロニーや、産卵性比が雄に偏ったコロニーが観察されている。これらの原因は、女王が環境とは無関係に雄卵を生産したためと考えられる。さらに、成虫時の性投資配分を調べた結果、個体群全体の40%のコロニーが雄のみを生産しており、雄に偏った性投資配分を行うコロニーが高頻度で観察されたことから、成虫時の性投資配分は、産卵時の性投資配分を反映していることが明らかになった。以上の結果から、特殊な血縁構造もつウメマツアリの性投資配分は、女王の最適値よりも雄に偏った値で実現されることが明らかになった。また、女王は雄卵数をコントロールすることはできず、生産した卵の一部は雄として発生することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在以下の投稿論文が査読中であるため。 Misato Okamoto, Kazuya Kobayashi, Eisuke Hasegawa and Kyohsuke Ohkawara. Sexual and asexual production of long-and short-wing queen in ant Vollenhovia emeryi. Biology letters.(under review)
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今後の研究の推進方策 |
現在は、ウメマツアリと同様の雌雄の繁殖様式が報告され、産卵数がウメマツアリの20-30倍のWasmannia auropunctata(コカミアリ)を使用し、父親のみの遺伝子を受け継いだ雄卵発生のメカニズムの解明を試みている。Wasmannia auropunctataは2012年2月~3月にかけて、南米のフランス領ギアナで採集した。現在までに、研究室内でコロニーを安定的に飼育できる条件を確立した。Wasmannia auropunctataは全てのゲノム配列が分かっているため、雌雄間で配列の異なる領域を染色し、卵内で雌雄性前核の識別を試みている。また、雄卵発生の解明に加え、雌雄の遺伝子発現パターンの違いから、雌雄間で観察されるゲノムレベルの対立にも注目し、研究を行っている。
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