シアン化物イオン架橋金属多核錯体は、シアン化物イオンを介した金属イオン間の磁気的・電子的相互作用に基づく特異な双安定性や外場応答性を示す。これまでに有機配位子の化学修飾により、シアン化物イオン架橋Fe-Co環状四核錯体が、固体状態での熱や光、溶液中でのプロトン付加に伴う金属イオン間電子移動誘起スピン転移を示すことを見出した。プロトン付加誘起分子内電子移動に基づく外場応答性の発現は、非配位性の末端CN基が弱塩基性を示すために、有機酸の添加により金属イオンの酸化還元電位が変化することに起因する。本研究は、金属イオン間電子移動を示すFe-Co環状四核錯体を水素結合により任意の集積構造体を構築することを目的とした。これまでにヒドロキシ基を有したプロトンドナー分子とFe-Co環状四核錯体の共結晶化により、一次元鎖及び二次元ハニカムシート構造を構築することに成功した。Fe-Co環状四核錯体とプロトンドナー分子は水素結合を形成している一方で、四核錯体の電子状態変化と水素結合の変化は顕著ではなかった。そこでより外場応答性分子との強い水素結合の形成を目的として、酸性度の高いカルボキシ基を有したプロトンドナー分子の結晶内への導入を行った。その結果、Fe-Co環状四核錯体の末端CN基とより強固な水素結合を形成した二次元集積構造を構築することが分かった。さらに集積構造体は、Fe-Co環状四核錯体の電子状態変化に伴い水素結合距離が変化することを見出した。水素結合を用いた集積化法が構成分子の外場応答性を保持したまま可能であることを見出し、電子状態と水素結合が比較的強く相互作用している物質系を構築した。
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