研究概要 |
本年度はタウブナット変形の一般化について研究した.タウブナット変形は,トーリック超ケーラー多様体と呼ばれるトーラス作用付きの非コンパクト超ケーラー多様体に対して定義されている概念である.トーリック超ケーラー多様体の体積増大度はユークリッド的である.すなわち,半径rの測地球の体積はr→∞においてr^Nの定数倍で近似される.ただし,$N$は多様体の実次元である. トーリック超ケーラー多様体上の超ケーラー計量はトーラス作用を使って変形できることが知られており,変形後の体積増大度はユークリッド的ではなくなる.このような変形はタウブナット変形と呼ばれている.Dancerは,D_k型ALE空間と呼ばれる,トーリックでない超ケーラー多様体に対してタウブナット変形を拡張した.彼の構成法は,Kronheimerが構成した複素簡約リー群の余接東上の完備超ケーラー計量を用いる. 私はこの構成をさらに広いクラスの超ケーラー商に拡張し,トーリック超ケーラー多様体と簸多様体を含む非常に広いクラスの超ケーラー多様体に対し,タウブナット変形を定義した.そして,この変形のもとで正則シンプレクティック構造が不変であること,とくに複素構造を保ったまま超ケーラー計量が変形されることを証明した.さらに,超ケーラー計量が定めるケーラー類も不変であることを証明した.これにより,非コンパクトな多様体上においてリッチ平坦ケーラー計量の一意性が成り立たない状況を豊富に作り出すことができる. 上記で定義した変形の前後で,リーマン計量の漸近的な挙動が変形されることが期待される.このことを具体例を使って確かめた.具体的には,C^2上のk点のヒルベルトスキーム上の超ケーラー計量に対してタウブナット変形を適用し,新しい超ケーラー計量を構成し,その漸近モデルはC^2上のタウブナット計量の対称積であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の研究目的は,非コンパクトなリッチ平坦ケーラー多様体の漸近挙動を調べることである.非コンパクトなリッチ平坦ケーラー計量の具体例としてはALE空間が有名だが,その漸近挙動は良く知られている.そこで,ALE空間とは異なる漸近挙動を持つ例がどのくらいあるか,またそのような例をどのように構成するか,は非常に重要な問題であるが,本年度の研究によって,この問題の解決に大きく貢献できた
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で定義したタウブナット変形の一般化によって,漸近挙動がどのように変化するかについてはまだわからないことが多い.特に,簸多様体のタウブナット変形によって計量がどのように変化するかは,一般的にはほとんどわかっていないので,この部分を発展させることが今後の課題である.そのためには,ナーム方程式と呼ばれる常微分方程式の解の構造を詳しく調べることが必要となるであろう. また,タウブナット変形は,超ケーラー多様体の可微分構造を変えない変形である.そこで,超ケーラー多様体に埋め込まれた複素部分多様体を潰したり,あるいは大きくするような変形の極限としてどのような多様体が現れるかを観察することも重要な問題である.これはすなわち,超ケーラー多様体のモジュライ空間の無限遠の構造を調べることに他ならない.
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