研究課題/領域番号 |
11J01500
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古川 真宏 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 世紀末ウィーン / モード / スタイル / セクシュアリティ / ウィーン分離派 / ウィーン工房 / ゲオルク・ジンメル / E・ヴィンマー=ヴィスグリル |
研究概要 |
「スタイル」と「モード」という言葉はともに「型」や「様式」を意味する一方で、「スタイル」 は規範的価値として、また「モード」は侮蔑的なコノテーションを含んだ言葉としても用いられるように、両者の間には一定の価値判断が作用している。このようなスタイルとモードの間の差異が、芸術家や建築家、デザイナーたちの間で問題とされ、盛んに議論されていたのが世紀転換期なのである。本年度の研究では、スタイル論が美術史学において、モード論が服飾史において専門化されていく最初期にあたる世紀転換期の議論や芸術的実践に注目することで、一方が他方を要請しつつ包含的に排除しながら形作られていったことを明らかにした。 スタイルやモードの峻別あるいは混同の問題が、世紀転換期に前景化してきたのは、芸術的な創作活動が資本主義の生産体制に取り込まれていくようになった当時の社会・文化状況だけが原因ではない。 スタイルやモードは、表現形式から性格や気質、精神性を観相学的に読み取り、文化の健全な発展を診断するための概念装置でもあったのである。そのため、心理学や精神医学においてもスタイルやモードが学術的なテーマとして取り上げられた。また、社会学の分野では、それまで軽視されてきたモードに社会的な意義を認め、理論化を試みようとする議論が現れてきたことに加えて、美術史学においては、スタイルという語から価値判断を取り去り、客観的な歴史の記述用語とすることが主要な課題とされるようになっていった。 このような同時代の知的背景を考慮しながら、ウィーンの総合芸術運動を自らの芸術のモード的な性格を自覚しつつも、それを「近代のスタイル」へと高めようとする試みとして捉えなおした。そのため本研究は、芸術上の様式概念を問い直すことであると同時に、世紀末ウィーンの芸術の新しい側面を浮かび上がらせるという点において意義深いと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、京都大学大学院人間・環境学研究科の紀要『人間・環境学』第21号にて、論文「ウィーン分離派とアドルフ・ロース-世紀末ウィーンにおける装飾とセクシュアリティ」を発表し、美学会西部会第292回研究発表会では、「世紀末ウィーンにおけるスタイルとモード」と題した口頭発表を行い、いずれも好評を得た。また、批評誌『ユリイカ』3月号に論考「浮薄なる様式-クリムトのスタイル/モード」を投稿した。これらの研究成果の発表から、研究がおおむね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究報告においてもたびたび言及していたが、世紀末ウィーンにおいて芸術と精神医学が最も深い関係を切り結んでいるのは、セクシュアリティをめぐってであることが浮かび上がってきた。そのなかでも、「幼女(Kindmadchen/Weibkind)」という特異な女性像に注目し、絵画における女性表象を文学や精神分析と比較しながら研究を進めていく予定である。
|