前年度の研究において、lambdaDNA分子を基板に吸着させたものを用いて、3次元周波数シフトマップ法による測定を行い、固液界面において分子スケールでの局所表面電荷密度計測が可能であることを示したが、測定に時間がかかるため、熱的なドリフトによって高分解能観察が困難であるという問題があった。FM-AFMでは保存力は周波数シフト、非保存的力(散逸力)はエネルギー散逸として独立で測定することが可能である。これまでの周波数シフトおよびエネルギー散逸の同時測定の実験結果から、電気二重層力(浸透圧力と静電気力)は完全な保存力であるために、周波数シフトのみにしか表れないことを明らかにしてきた。そのため、周波数シフトを探針―試料間距離制御のためのフィードバック信号として用いた上で、エネルギー散逸を同時計測することで、エネルギー散逸量から相対的な表面電荷密度を見積もることが可能であることを見出した。 物質の親疎水性の違いが固液界面における溶媒和構造や電荷密度分布とどのような関係にあるか明らかとなっておらず、親疎水性制御を用いたデバイス作製などのために、親疎水性原理の解明は重要である。界面活性剤SDSの溶液中においてHOPG基板上で周波数シフトマップ測定を行い、半円筒形状のミセルを可視化することに成功した。しかしながら、測定領域を決める周波数シフトlimit値を上げることで、探針側のミセルの破壊も観察されることが分かった。また、探針と試料のミセル間に働く相互作用力として、電気二重層力だけでなく、探針と試料表面ミセルの変形に伴う粘弾性力も働くことが分かった。更に検討を行った結果、DDABを用いることで試料表面のみにミセルを形成することが分かり、また表面要素積分法を3次元に拡張した手法の開発にも成功し、ミセル表面の表面電荷密度分布計測に成功した。
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