研究課題/領域番号 |
11J01593
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高井 龍 広島大学, 総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 敦煌 / 変文 / 文学 / 祗園因由記 / 降魔変文 / 維摩経 / 王陵変文 |
研究概要 |
本年度の研究では、敦煌出土文献のうち、変文の発生要因の新たな一面を突き止めることを課題とした。そして、2011年11月にフランス国立図書館での調査を行い、複数の変文関連写本の実見を通して、敦煌変文の発生に仏僧・曇曠(生没年不詳)との関わりを見出すことができた。曇曠は、もと長安・西明寺にて研鑽を積んだ経歴を持ち、8世紀後半以降の敦煌仏教界に多大な影響を与えた人物である。その曇曠の著作の1つ「金剛般若経旨賛」に盛り込まれた仏教説話が、9世紀敦煌において広く僧侶の教学にも利用されたことが、『維摩経』関連写本P.2344Vに見出された。そしてそれは、9世紀後半には「祇園因由記」という名称で独立した物語となり、10世紀には、「降魔変文」の広い流布へと繋がっていった。変文については未だ解決されざる謎が多い中、その発生に敦煌仏教の教学との繋がりを解明できたことは、当該分野の理解に大きな寄与となると同時に、変文が宋代以降の俗文学の源泉であることからも、中国俗文学研究への寄与ともなったであろう。 また本年度は、アメリカのVictor Mair氏による「王陵変文」写本調査報告の翻訳紹介を併せ行った。当「王陵変文」写本は、個人所蔵として保管されており、且つ調査報告も日本や中国では入手困難であったため、変文研究者の間でさえ長らく知られていない文献であった。この度の翻訳により、新たな変文写本の存在を多くの敦焼文学研究者に提供できたであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
9世紀後半の仏教説話「一祇園因由記」は、同系説話が早くから中国に伝えられており(『賢愚経』等)、敦煌でも早くから流布していた。そのような背景を持つ「祇園因由記」が、単に民間に流布したというだけでなく、中国で最も流布した仏教経典の1つ『維摩経』と結びつき、変文へも繋がっていったことが明らかにできたことにより、変文の発展変化を解明する本研究目的にも合致する成果が見られたと言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
今後は「舜子変文」の発展形成過程を明らかにしていく。そのためにまず、大英図書館での写本の実見調査を行う予定である。そして、既に先行研究でも明かされた仏教儀礼との関わりを踏まえながら、その形成過程に、敦煌仏教独自の歴史や性格がいかに反映されているかを解明していく。また、23年度の研究成果により明らかとなった「祇園因由記」と「降魔変文」との関係を参考に、変文へと至る過程に、いかなる他の仏教説話が関わっていたかも調べていく。
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