研究課題/領域番号 |
11J01608
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井口 弘章 九州大学, 大学院・工学研究院, 特別研究員(SPD)
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キーワード | 電荷移動錯体 / ジヒドロフェナジン / TCNQ / 近赤外吸収 / ナノワイヤー / 交互積層 |
研究概要 |
今年度、本研究では以下の2つのテーマについて研究を行った。 テーマI: 溶液中に分散可能な種々の機能性分子ナノワイヤーの合成と新奇物性の発現 本テーマでは、まずドナー及びアクセプター分子の交互積層化による機能性分子ナノワイヤーの合成に取り組んだ。強いドナー分子としてジヒドロフェナジン(DHP)骨格に着目し、ジヒドロフェナジンと1,3-ジブロモプロパンとの反応、続くアルコキシ鎖の導入を経て、種々の新規DHP誘導体を合成した。このドナー分子と、強いアクセプターであるテトラシアノキノジメタン(TCNQ)との等物質量混合物は、トルエン中で原料にはない近赤外吸収を示したことから、溶液中で電荷移動錯体を形成していることが明らかとなった。1H NMRスペクトルの測定からは、溶液中では電荷移動錯体のほとんどが二量体として存在していることが示唆されたが、固体状態では電荷移動吸収帯がアルキル鎖長が伸びるほど長波長側にシフトしていることから、ナノワイヤーを形成し、アルキル鎖による化学的圧力効果によって電子状態が変調されている可能性が示唆された。これは分子ナノワイヤーの機能を制御する上で極めて重要な知見である。 テーマII:分子の自己組織化を用いた高い電荷分離・電荷輸送能を有する有機材料の創製 本テーマでは、まずn型有機半導体としてナフタレンジイミド(NDI)骨格に着目し、水素結合部位としてピリジル基をイミド窒素に導入した分子(NDI-py)を合成した。次に、p型半導体としてベンゾジチオフェン(BDT)骨格に着目し、NDI-pyと相互作用させる部位としてカルボキシル基の導入を試みたものの、BDT骨格合成条件ではカルボキシル基の前駆体が不安定であることが明らかとなり、溶液系から分子の自己組織化による有機材料の合成を行うには、チオフェン等の温和に合成可能なp型半導体を導入する方が良いとの指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマIにおいて、新規ジヒドロフェナジン誘導体を合成し、これまでほとんど明らかになっていなかった、溶液中における強いドナー及びアクセプターの自己集合特性について、明らかにすることができた。また、固体中でアルキル鎖長に依存した電子状態の変化を観測することができ、今後の物性制御の指針となることが期待される。テーマIIにおいては、目的とする有機材料の合成にまでは至らなかったが、新規分子の合成を種々検討したことで今後の分子設計の指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
テーマIについては、アルキール鎖の鎖長をより細かく変えたDHP誘導体を合成し、鎖長依存性をより詳細に検討するとともに、室温付近だけでなく、低温等のナノワイヤーの成長が見込める温度領域での検討を進めていく予定である。また、分子内に水素結合可能な部位を導入することでより強固な機能性分子ナノワイヤーを合成したり、ドナーとアクセプター分子を交互に基板上に集積させるなどして、徐々に機能解析の面にも取り組んでいきたいと考えている。さらに、一次元だけでなく、二次元配位高分子を親水性配位子で連結した機能性ゲルの創製も行う。テーマIIについては、水素結合部位を導入したp型有機半導体の合成が急務であり、簡便かつ高性能の分子を合成する手法を確立し、光電変換特性等の機能の評価を行っていきたい。
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