研究概要 |
典型的な現在の海底熱水噴出孔は,重金属に富み,酸性(pH~2),高温(<400℃)の熱水を噴出する(Tivey,2007).一方で近年,カンラン岩の蛇紋岩化で発生する塩基性(pH;9-11)の流体が噴出するロストシティー熱水(<90℃)地域や南チャモロ海山低温湧水(4-10℃)系が発見された(Kelley et al.,2005;Hulme et al.,2010).これより,初期地球の海底熱水環境もまた多様な化学組成(pH,温度,金属イオン)を呈し,それぞれの環境で異なる生命前駆物質の化学進化が起こっていた可能性が考えられる.本研究では,熱水中の金属イオンに着目し,様々なpH条件下で種々の金属イオン(Ca^<2+>,Mg^<2+>,Zn^<2+>,Cu^<2+>,Fe^<2+>,Mn^<2+>)をそれぞれ含む場合のグリシルグリシン(GlyGly),グリシルグリシルグリシン(GlyGlyGly)およびジケトピペラジン(DKP)の生成・分解速度定数を決定した. 塩基性のZn^<2+>,Cu^<2+>を含む水溶液,中性でFe^<2+>を含む水溶液を除き,金属塩を加えると,金属塩を加えない水溶液と比較してGlyGlyの生成は抑制された.金属塩を加えない水溶液と比較して,酸性下では金属塩を含む水溶液では,金属塩の種類に関わらずDKPは促進された.中性下,塩基性下では,中性でFe^<2+>を含む水溶液,塩基性でZn^<2+>を含む水溶液を除き,DKPの生成は抑制された.Cu2+を含む水溶液でのみGlyGlyGlyが生成し,塩基性で最も高い濃度を示した.また,反応速度は,金属塩はGly,GlyGly間の反応速度に数倍程度の変化を及ぼすのに対して,GlyGly,DKP間の反応速度には三桁から四桁の変化を及ぼし,金属塩はGlyGly,DKP間の反応速度を主に変化させる事が明らかとなった.Ca^<2+>,Mg^<2+>,Zn^<2+>は錯体を形成しにくく,Cu^<2+>は平面構造の錯体を,Fe^<2+>,Mn^<2+>は八面体構造の錯体を形成する.Gly,GlyGlyと金属イオンの錯体の立体構造の違いが,生成物の収量と反応速度に影響を与えると考えられる.塩基性の熱水系ではZn^<2+>とCu^<2+>が,中性の熱水系ではFe^<2+>がペプチド結合の形成を促進する可能性が考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度では,海底熱水噴出孔で一般的に存在する金属イオンがアミノ酸の反応速度に与える影響を評価することを目的とした.様々なpH,金属イオン存在下でアミノ酸の重合速度を求め,アミノ酸と金属イオンの錯体形成過程について考察を行った.現在,研究成果の論文を執筆中である.また,研究対象である大西洋中央海嶺玄武岩中の有機炭素の同位体分析を合わせて進めている.そのため,おおむね順調に進展しているといえる.
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