研究課題/領域番号 |
11J01689
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
増森 海笑ダモンテ 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | アナトリア / 定住化 / 食糧獲得経済 / 新石器時代 / 装身具 / 埋葬行為 / アイデンティティ / 交易活動 |
研究概要 |
24年度は大学内のプロジェクトの関係でトルコ共和国のイスタンブル大学におよそ1年間滞在することができた。イスタンブルでは資料調査を中心とした研究活動を行い、自身が研究対象としている新石器時代の諸遺跡から出土した資料を実見する機会を得ることができた。ここには様々な国から様々な領域の専門家が訪れ、彼らとの意見交換は自身の研究にとって大きな刺激となった。もちろん大学の教授陣や学生たちとも議論をすることにより、研究を進めるうえで多様な視点があり得ることを知ることができ、非常に良い経験をすることができた。 夏期には23年度から継続しているバットマン県のハッサンケイフ・ホユック遺跡の調査に参加した。23年度は初年度ということもあり全体像を確認するにとどまった部分が大きかったが、24年度の調査では1.1万年前の集落がどのように構成されていたのかという具体的な部分まで知ることができた。定住を始めたばかりの彼らは住居を非常に重要なものとして捉えており、多くの遺体が住居の床下に埋められていた。とある大型円形住居からは7体の遺体が壁に沿って円形に配置されており、そのうち2体には2000点を超えるビーズなど非常に豪奢な副葬品が伴っていた。この事例は住居が彼らの社会生活のなかで重要な役割を演じていることを示唆しており、多様な産地からもたらされた副葬品によって特定の死者が飾られていたことは当時の社会のあり方を特徴付けている。またトルコに身を置いていることを利用してトルコ国内各地へ積極的にフィールドワークにもでかけ、交易活動の証拠となる遠隔地の貝や岩石を拾い集めることも併行して行った。 また人類史のなかでもさらに巨視的な視点にたった考察も、定住や交易といった出来事を理解するうえでは重要である。そこで24年度には様々な遺跡から得られたデータと自身で発掘している遺跡の資料をあわせて整理し、現生人類とネアンデルタール人の比較も視野に入れたうえでの考察を行った。その結果、社会における象徴的思考のあり方が時間軸にそって大きく変遷している様子を描くことができた。そういう意味では未だに社会の経済的側面が重要視されることが多いものの、より象徴的側面などにも目を向けるべきだという指摘を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
私の研究の目的は、人類史における定住と交易のインパクトを考察することである。定住活動についてはその初現の様子をよく示している遺跡を調査する機会に恵まれて研究が進展している。一方で交易活動に関しては、当時のその活動のあり方を示唆する資料が欠落していたり、資料の解釈に困難な部分が多いためにいささか難航している。交易活動の実態を捉える方法論の構築が急務となる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は3年間の最終年度にあたるために、これまでに集めた知見をまとめて発表することを考えている。24年度に行ったようなこれまでとは異なる視点での考察も積極的に行っていきたい。 また遺跡から出土する貝については産地や種などおおよそのことは分かってきたものの、岩石についてはその産地など分かっていないことが多い。アナトリアをフィールドにしている考古学者も岩石の産地はあまりよく分かっていないようなので、文献に頼らずに自身の足で現地における踏査を行うことを考えている。上に記したような交易活動の実態を捉えるためにはこのような地道な作業が不可欠である。
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