研究概要 |
最近我々は2つのケイ素ラジカルを一般的なπスペーサーであるベンゼン環のp-位及びm-位に集積させたビス(シリルラジカル)の合成及び単離に成功し、パラ体が基底一重項のキノイド構造を持つ一方メタ体が高スピン基底三重項状態を持つことを明らかにした。本年度は、更なる基底多重度の増大を目的とし、ベンゼン環の1,3,5-位で3つのシリルラジカル中心を連結したトリス(シリルラジカル)の合成、及びX線結晶構造解析に成功した。さらにEPRスペクトルの詳細な検討により、このトリラジカルが基底四重項種であることが分かり、ベンゼン環の1,3,5-位に位置する3つのシリルラジカル間に強磁性的相互作用が働くことを明らかにした。これらの結果は、古くから盛んに研究が行われている第二周期元素を基盤とする高スピン分子の設計と同様の戦略により、高周期元素を基盤とする高スピン分子の設計が可能であることを示しており、新たな高スピン分子の創製に貢献するものである。 さらに、ベンゼン環の代わりにジシラン鎖を連結子としたケイ素ビラジカル種の合成も検討した。オリゴシラン鎖はπ共役系に類似して、電子がσ結合に沿って非局在化するσ共役を発現することが知られているためそのようなσ共役系を介したスピン間相互作用に興味が持たれる。現在までに、そのようなケイ素ビラジカル種の合成に成功し、EPRスペクトルにより基底三重項分子であることを明らかにした。古くから様々な有機ラジカル集積分子が報告されているが、σ共役系をスペーサーとした報告例はなく、今回の結果は有機ケイ素化学において基礎化学的に重要な知見を与えるだけにとどまらず、有機磁性体開発におけるスペーサーとして新たにσ共役系を用いることが可能であることを示している。現在は、引き続き構造や反応性について検討を行っている。 以上本年度の我々の研究結果は、有機磁性体開発において重要となるスピン中心元素及び連結子のどちらにも高周期元素を用いることができることを示したため、全く新しい有機磁性材料の創成に貢献する非常に重要な成果であると考えられる。
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