研究課題/領域番号 |
11J01777
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
上野 琴巳 神戸大学, 大学院・農学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ストリゴラクトン / 5-デオキシストリゴール / 酸化的代謝 / 安定同位体 |
研究概要 |
ストリゴラクトン(SL)と総称される一連の化合物は、根圏に放出される生物間のシグナル物質として、根寄生雑草種子の発芽やアーバスキュラー菌根菌の菌糸分岐を誘導する。またSLを生合成する植物に対しては、枝分かれの抑制物質として作用する。SLの基本骨格は三環性ラクトンとメチルフラノンから成り、2つのラクトンとそれらを繋いでいるエノールエーテル結合は活性に必要な部位であるが、それ以外の二環部分は活性に大きな影響を与えない。そのためか様々な植物において二環部分が色々な酸化修飾を受けたSLが単離されている。これらの酸化修飾の意義、即ち酸素官能基導入は活性体合成の一部なのか、もしくは不活性化のための代謝反応なのかを明確にするため、本年度は多種多様なSLを生合成する植物体を体系化し、酸化反応メカニズムの解明のため、植物によるSLの酸化的代謝物の解析を行った。 SLには、全く酸化修飾されていない5-デオキシストリゴール(5-DS)、水酸基が1つ導入されたオロバンコール、ストリゴール、ソルゴモールが含まれている。これらの酸化SLが5-DSを基質として生合成されるのか確認するため、安定同位体で標識した5-DSを様々な植物に投与し変換をLC-MS分析で確認した。するとソルゴモールとストリゴールは5-DSから変換された。これらへの代謝はウニコナゾールで阻害されたことから、チトクロムP450が水酸化反応に関与していると思われる。それに対し、オロバンコールは5-DSの酸化によっては生合成されない場合もあることが明らかになった。5-DSをオロバンコールへ変換できない植物は、外生5-DSをソルゴモールの異性体へと変換した。この異性体は未だ天然からは同定されていない。以上の結果を踏まえると、一連の酸化型SLの生合成には、5-DSを経由する経路と経由しない経路が存在していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象を代謝酵素に集中させることで、複数の植物におけるSLの酸化反応メカニズムを解析することができた。また代謝酵素阻害剤の種類も決定することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、SLの代謝酵素に注目して研究を進めていく。5-DSからストリゴールもしくはソルゴモールへの変換を触媒する酵素はP450であることが判明したので、いくつかのウニコナゾール類縁体を購入し、これらの反応を特異的に阻害する阻害剤のスクリーニングを行う。また今年度の研究を通して、SLの代謝経路だけでなく生合成に関わるいくつかの結果が得られた。今年度SL生合成の一部が明らかになったので(Alder, et al. 2012, Science)、それを踏まえてSLの生合成経路の解明にも着手していく。具体的には、5-DSを経由しないでオロバンコールを生合成する植物に対して市販の酸化酵素阻害剤を処理し、内生オロバンコールの減少や増加する物質の探索をLC-MSを用いて行う。
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