研究課題/領域番号 |
11J01792
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中根 大介 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | Bacteroidetes属 / 滑走運動 / アドヘジン / らせん / 数理モデル / プロトン駆動力 / 分子形状 / 分泌装置 |
研究概要 |
私たちは、バクテロイデスがもつ滑走・分泌装置の全容解明を目指して研究している。バクテリアの1グループであるBacteroidetes属は、海中・土壌・体内、様々な環境に広く分布している。これらの多くは、滑走運動と呼ばれる、表面上を動く能力があるが、そのメカニズムは、既知の生体運動とは根本的に異なっており、全く新しい装置の存在が示唆されている。本年度は、滑走装置の構造や挙動を『可視化』することで、このメカニズムを新しいアプローチで明らかにした。 最も速く滑走するBacteroidetesであるFlavobacteriumjohnsoniaeにおいて、SprBという外膜タンパク質に注目して研究を進め、以下の結果を得た。1.滑走運動しているバクテリアに、SprBに対する抗体を加えると、濃度依存的にガラスからはずれていったので、SprBは固形物表面への接着をになうアドヘジンとしての機能をもつと考えられた。2.運動を阻害しない程度の濃度の抗体をもちいて、このタンパク質を蛍光標識すると、菌体の膜表面上を高速で動いているのを可視化できた。これは、菌体の極から極へと、約3μmのピッチをもつ、右巻きらせんに沿った動きだった。3.このらせんの流れは、プロトン駆動力の阻害剤によって可逆的に停止し、同時に菌体の滑走運動も停止した。4.このらせん流をもちいて、菌体が表面上を滑走運動するとき、左に曲がる傾向があった。5.らせん状に流れているSprBは、細くて硬い150nmの繊維状の分子形状をとっており、膜から固形物表面に向かって、突き出していた。6.繊維状のタンパク質が右巻きのらせんに流れるとき、左に曲がる滑走運動が生じることを数学的に検証し、評価した。 これらの成果により、未知の生体運動であったバクテロイデスの滑走運動は、右巻きのらせん流によって生じるユニークなメカニズムであることを示した。運動装置は、バクテロイデスの病原毒素分泌装置と類似性があるので、そのメカニズムを解明する上でも、重要な知見といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
滑走運動のメカニズムが解明されつつある。これは、顕微鏡による可視化技術の発展、分子生物学的な変異体・抗体リソースの充実、数学的な運動モデル構築、それぞれが融合することで、学際的な研究が展開したことによる。当初の研究目的を達成しており、今後の研究目的であるタンパク質分泌メカニズムを明らかにする上でも、有用な成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画のうち、滑走装置に関する理解は深まりつつある。そこで今後は、分泌装置に関する研究に焦点をあてる。上記の研究と同時進行で、関連タンパク質の精製方法を、今年度に確立した。この成果は、電子顕微鏡による構造観察や、共同研究であるX線結晶構造解析として展開している。原子レベルでメカニズムを議論することが、近く可能になるかもしれない。また、研究対象の菌種を、ヒトの病原細菌に変えることで、毒素タンパク質分泌メカニズムに関する理解も深める。顕微鏡の周辺装置を充実させ、嫌気性菌の高解像度ライブ観察を可能にすることで、より波及効果の高い研究を推進していく。
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