研究課題/領域番号 |
11J01842
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 雄史 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 確率安定性 / 転移作用素 / SRB測度 / 相関関数 / 力学系のゼータ関数 / 区分拡大写像 / 超局所・半古典解析 / 前量子Anosov系 |
研究概要 |
報告者は転移作用素と呼ばれる力学系のエルゴード理論的性質を記述する作用素のスペクトル構造を解析することで、確率安定性、つまりSRB測度と呼ばれる力学系の統計的性質を反映した確率測度の安定性についての研究を行ってきた。この研究の中で、関数解析的・超局所解析的・剛性理論的に自然な作用素および関数空間を導入し、拡大写像に代表される重要な力学系の統計的性質や諸量の、先行研究よりも一般化された摂動に対する安定性を示すことに成功した。特に、「研究実地計画」の目標であった区分拡大写像の確率安定性の証明に成功した。 また、この際に自然に導入された統計量によって、先行文献において別々に研究されてきたランダムな統計的諸量の統一的な取扱いを見出した。特に、その結果としてBaladi、KondahおよびSchmittによって1996年に予想された相関関数の減衰速度の安定性が肯定的に解決された。この統計量は力学系の複雑さの標準的な指標の一つであり、その意味でこの量の摂動に対する安定性は重要な意義を持つ。 さらに、ランダムな力学系のゼータ関数の極の解析について部分的な結果が得られた。これらの結果は交付申請書にもあるように、数論などの他分野との強い関係性が予想されるという点で非常に重要であり、今後の更なる進展が望まれる問題である。 これらの結果の一部はLund大学のポスドクであるJens Wittstenとの共同研究であり、超局所解析や半古典解析を利用した非常に新しい試みである。この方向へは、交付申請書提出書時に予想されていたよりも大きく進展があった。転移作用素の擬微分作用素としてのシンボルの評価によって、転移作用素の本質的スペクトル半径を詳細に評価するという基本方針が確立し、必ずしも双曲的でない方向がある前量子Anosov系と呼ばれる重要な力学系の簡単なものについて確率安定性の証明に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的であった区分拡大写像の確率安定性の証明に成功したのみだけでなく、以下のような副次的な発展があった。(1)Baladi-Kondah-Schmitt予想の解決。(2)ランダムな力学系のゼータ関数の収束半径に関する進展。(3)超局所解析的な確率安定性の証明の確率、およびそれを利用した前量子Anosov系の一例の確率安定性の証明。
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今後の研究の推進方策 |
(1)確率安定性、転移作用素の固有値および本質的スペクトル半径の安定性などの、拡大写像について現在得られている結果の、二次関数族などより複雑な力学系への拡張。問題点は、適当な関数空間の設定に帰着され、現在Bochner-Sobolev空間でのLasota-Yorke不等式などの重要な評価が成立するかを検討している。 (2)上記のJens Wittstenとの共同研究である、超局所解析を用いた転移作用素の固有値の分布に関する詳細な研究。これは現在も進展中であり、現時点では特に大きな問題点は見つかっていない。
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