研究課題/領域番号 |
11J01842
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 雄史 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ランダムな転移作用素 / SRB測度 / 相関関数の指数的減衰 / 半古典解析 / 前量子拡大写像 / Ionescu-Marinescuの定理 / ランダムなゼータ関数 / Lyapunov指数 |
研究概要 |
報告者は、ちょうど1次元周波数分解を保存するような中立的な方向を持つ2次元トーラス上の部分拡大写像(以下前量子拡大写像と呼ぶ)が部分束縛性を満たすとき、独立同分布な微小摂動に対して、相関関数の指数的減衰が安定であるという結果を得た。この研究は日本学術振興会海外特別研究員であるJens Wittstenとの共同研究である。 本研究の対象となる力学系である前量子拡大写像は、接触的な双曲流や前量子双曲写像と同様ちょうど1次元双曲的ではない方向を持ち、それゆえに必ずしもすべての前量子拡大写像の相関関数が指数的に減衰するとは限らない。そこでこの中立的な方向に対して周波数ごとに分解を行い、高周波領域、つまりこの方向の影響が強く出る領域での転移作用素の(これをフーリエ積分作用素と見たときの関連する正準変換の)非遊走領域への再帰の速さに関する評価が必要になる。これ十分に遅い、つまり半古典極限においては転移作用素によって十分に遊走させらるという条件が部分束縛性であり、これは通有的な性質であることがわかっている。一方で、そのオーダーのみを考慮に入れる定義から、一般にはこれは剛性を持たないので、本研究は摂動が決定論的なものに限っても非自明な結果となる。証明においては、上記の説明の通りすでに知られている半古典解析的な方法に大きく寄ってはいるものの、弱部分束縛性近傍の存在という概念を導入することで、一種の弱い剛性を証明することに成功した。これはさらに、相関関数が指数的に減衰しないことがわかっている、定数関数にコホモロジカルなクラスが稠密でないという、決定論的な力学系の剛性理論において重要な意味を持つ結果を結論する。また、本研究においては半古典解析と並んでランダムな線型作用素のスペクトルのLyapunov指数を経由した研究が重要な役割を果たしたが、この中で多くの新しい概念が導入された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
9の主要な道具の一つであったランダムな線型作用素のスペクトルに関するLyapunov指数を経由した研究を軸として、9の安定性解析以外にも、Ionescu-Marinescuの定理のランダムな線型作用素への拡張、ランダムな力学系のゼータ関数の特異点とランダムな転移作用素の"スペクトル"の関係の理解への貢献といった幅広い進展があった、そのため数学的には当初の計画いじょゆに実りの多い年であったが、これを学会発表・議論するために研究集会などに参加しすぎたために、査読有の論文数が0であった。よって、これを理由として(1)ではなく)(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
11でも述べたように、9の主要な道具立ての1つであったランダムな線型作用素のスペクトルに関するLyapunov指数を経由した研究が多くの異なる背景を持つ問題において有効な道具となることが判明したため、これらを包括的に研究するために、より一般の(転移作用素とは限らない)ランダムな線型作用素のスペクトルについての研究を行い、その後これを諸問題に応用し、単独の解析では見えてこなかった、ランダムな線型作用素のスペクトルの視点からの理解を深める予定である。その中で、特にランダムな線型作用素から誘導される大域的作用素が擬コンパクト的になる関数空間の存在証明が最も困難な課題となるが、これは具体的な力学系についていくつか計算してみることで"保存量"の存在が明らかになり、これを利用して更生手kにそのような関数空間の存在を示すことができると期待している。
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