本年度は申請した研究計画に基づき、本駆動方式デュアルモードディスプレイ(DMD)素子の基礎駆動機構の総括と、DMD素子の特性評価及び耐久性向上といった特性改善について検討を行った。 検討には前年度の研究成果より得られた知見から、エレクトロクロミック(EC)材料としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を、電気化学発光(ECL)材料にルテニウム錯体(Ru(bpy)_3錯体)を用いた。PEDOT-Ru(bpy)_3錯体のDMD素子の駆動電圧は1.7Vと非常に低電圧から駆動開始が可能だが、素子の劣化が起こる電圧も低下しており、±3.0V以上の駆動電圧では5分と持たずに発光が起こらなくなった。昨年度本研究で新たに考案した電極電位測定法を用いて劣化原因を解析した結果、PEDOT-Ru(bpy)_3錯体のDMD素子では+方向で1.7V印加時に「PEDOTの酸化〓Ru(bpy)_3錯体の還元」の反応が起こり、-方向ではほぼ0V付近で「PEDOTの還元〓Ru(bpy)_3錯体の酸化」の反応が起きている事が確認できた。これにより駆動電圧±1.7VにてRu(bpy)_3錯体の酸化体、還元体の両方が生成されECLに至っている事を実証するとともに、PEDOT-Ru(bpy)_3錯体のDMD素子の印加電圧+側と-側で駆動電圧が非対称であり、-側の電圧印加時に過電圧となり電解液の分解電位に達している事が明らかとなった。これに対し印加電圧にバイアスをかけ±3Vから-2V/+4Vでの駆動とすることで、-側での過電圧の防止と+側での反応の増加を両立し、素子の反応電荷量バランスを維持しつつ電位負荷の偏りを抑制することに成功した。この結果PEDOT-Ru(bpy)_3錯体DMD素子の発光持続時間は、初期の±3Vでの5分未満に対し、バイアスを印加した+2V/-4V駆動時には約60分を達成し、10倍向上させることに成功した。 これまでの研究成果より、DMD素子の基礎特性、基本的な設計指針や特性改善方法などを明らかとした。本研究で考案した素子駆動中の電極電位測定法は本DMD素子だけでなく他の一般的な電気化学素子にも応用可能な解析手法である。これによって特に今後ECL素子の駆動機構解析・特性改善が進めば、本研究の知見を基に速やかな高性能DMD素子への展開が期待できる。
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