研究課題/領域番号 |
11J01864
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡邉 研右 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 鳥類 / 異物代謝 / シトクロムP450 / 種差 / 進化 |
研究概要 |
平成24年度は、鳥類の異物代謝酵素シトクロムP450(CYP)に関する理解を深めるため、複数の鳥類種でのCYP遺伝子の網羅的同定・分類を行った。他に、ニワトリでのフェノバルビタールによるCYP分子種の誘導解析や、ワルファリンの体内動態解析および排泄物中の代謝物分析などを行った。 鳥類CYP遺伝子の同定・分類については、これまでに解析したニワトリに加えて、キンカチョウ・シチメンチョウというゲノム情報が公開されている3種の鳥類を用いて行い、哺乳類であるヒトとの比較をした。その結果、CYP2AB/CYP2ACなど鳥類特有と考えられる分子種が数多く存在し、鳥類特有の異物代謝酵素を保持していることが示された。また、鳥類間でもCYP2Cについて遺伝子数が異なるなど、遺伝子レベルでの種差があることも明らかになった。 さらに、ニワトリ肝臓での各分子種のmRNA発現量を比較したところ、CYP2C45が最も高発現しており、ニワトリの異物代謝上重要な分子種であると考えられた。一方で、哺乳類におけるCYP2B誘導剤であるフェノバルビタールは、ニワトリではCYP2C23aやCYP2C23bなどを顕著に誘導することが明らかになった。また、CYP3A37やCYP3A80などもフェノバルビタールにより誘導された。 ニワトリでのワルファリン体内動態解析を行ったところ、血中半減期は約40時間だった。これはラットの4倍程度に相当し、ニワトリよりもワルファリン代謝活性が低い他の鳥類種ではより長い半減期になることが予想された。排泄物中の代謝物解析については、4'位水酸化体が多く見られ、in vitroでの代謝活性測定結果と合致する結果だった。今後、排泄物中の代謝産物について、グルクロン酸抱合体や硫酸抱合体に関するより詳細な解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画にしたがって、ニワトリでのフェノバルビタールによるCYP誘導や、ワルファリンの体内動態解析などについて順調に研究を進め、鳥類異物代謝に関する理解を深めることができた。特に、鳥類CYP分子種の網羅的同定および分類と、鳥類で重要なCYP分子種特定を行ったことで、鳥類CYP研究において長年欠落していた知見を提供することができた。本研究により今後の研究基盤を構築したことで、2012年度日本毒性学会では優秀研究発表賞受賞している。来年度の研究で焦点を合わせるべき分子種を特定できたため、来年度はさらなる研究発展が見込める。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を元にさらに研究を発展させ、複数の鳥類種でのCYP機能解析と種差解明を行う。 無数に存在する環境化学物質に対する機能解析はin vitroのアッセイ系では困難である。そこで、in silicoなど計算生物学的な手法を応用して鳥類CYP分子種の機能解析を行うことが新たな課題として見えてきた。in silicoでのCYP機能解析は主にヒトの創薬で行われているが、鳥類などの野生動物では全く行われていない。そこで、第一に、ヒトでの解析手法を応用して野生鳥類のCYP解析系としての手法の確立を行う。この解析系を構築することで、本研究が最終年度に目指すところである、鳥類異物代謝と食性との関連にアプローチできるようになる。また、これに並行して、鳥類へのワルファリン影響については、標的分子であるビタミンKエポキシド還元酵素についてニワトリで阻害を受けにくい原因となっているアミノ酸を特定する研究を行う。
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