研究課題/領域番号 |
11J01929
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福岡 脩平 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | キラル磁性体 / 有機導体 / 反強磁性 / 超伝導 / π-d系 |
研究概要 |
本研究は、キラル磁性体および有機磁性超伝導体の示す物性現象の解明を目的としたものである。キラル磁性体については計画にも示した通り、初年度は、磁場誘起一次転移がR体でも見られるか、及びこの現象がキラリティーに由来しているかを検証することを目的として、R体及びラセミ体の測定を行い、得られたデータから両試料の磁場温度相図を完成させた。その結果、一次転移はR体でも現れることを明らかにした。 また、新たにラセミ体での検証では、一次転移は現れるが、その条件がR体での結果に比べて低温、低磁場に位置することを見出した。以上の結果は、第一に一次転移が本試料の示す本質的な現象で、結晶のキラリティーが磁気的性質に影響を与えていることを示唆するものであり、第二にラセミ体結晶の構造は単にキラリティーを失ったものではなく、結晶内でS体、R体のドメインのようなものを形成した結晶構造を有している可能性を示唆するものである。以上の結果は、本物質の磁気構造および、他のキラル磁性体との関係を考えていくうえで重要な結果である。 次に、有機磁性超伝導体については、今後の研究に不可欠である極低温での測定環境の整備から始めて、κ-(BETS)_2FeCl_4の磁気転移の検証までを行った。結果として、研究室所有の希釈冷凍機において、最低温0-1K付近から高温10K付近までの連続測定が可能となった。これにより、今後の反強磁性と超伝導の共存相などの検証を正確かつ迅速に行うことが可能となった。この装置を用いてκ-(BETS)_2FeCl_4(T_N=0.47K, Tc=0.1K)の測定を行い、磁気転移の検出及びそのエントロピーの評価、磁気転移の低次元性についての議論などを行った。加えて、磁場依存性の検証から、d電子系が強い異方性を持つことを見出した。これらの結果は、今後πd系を議論していく上で重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
キラル磁性体は当初計画していた検証を行い、予測していた一次転移の検出、キラル体試料とラセミ体試料の比較、及びその結果をもとにした物性現象の議論を行うことができた。加えて有機磁性超伝導体については、計画していた装置整備を行い、それを用いて測定を行うことが出来た。両試料について得られた結果を、国内外の学会で報告することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果から、キラル磁性体の磁気構造、一次転移の発現機構の解明には、熱容量の磁場印加角度依存性、及びスピン配向の変化等を検証する必要があると考えられる。そのため、より精密な磁場印加方向制御下での熱測定に加えて、磁化測定等から得られる相補的な情報を組み合わせることで、磁場下での磁気構造、及び一次転移の発現機構を明らかにすることを目指す。一方で計画にも示した通り、動的磁場下での測定を行うための装置開発を並行して行っていく予定である。その際、本研究対象物質に加えて、すでに動的磁場下で特異な現象を示すことが報告されている物質についても検証していきたいと考えている。 有機磁性超伝導体については、本年度での整備によって測定可能となった、極低温での測定システムを用いた測定を本格化させ、磁気転移、超伝導との共存相について検証を行っていく。加えて本年度から継続して、磁場誘起超伝導相の検証を目指した測定装置の設計、改良を行い、作成した装置の評価及び、実際の測定を開始することを目指している。
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