研究課題/領域番号 |
11J01936
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 浩平 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ナノマテリアル / フラーレン / 炎症性腸疾患 / DDS / 経口投与製剤 / 安全性 |
研究概要 |
本研究は、安全かつ有効な「経口投与型ナノDDS医薬」の開発を最終目標に、DDS化C60フラーレンを新規合成・創製し、炎症性腸疾患に対する有効性・安全性を精査しようとするものである。当該年度は、研究計画に従い、C60フラーレンの化学修飾法を駆使し、水溶性高分子で化学修飾したDDS化C60フラーレンを創製した後、物性とともに、抗酸化作用・炎症性サイトカイン産生抑制作用などの炎症性腸疾患治療薬としての基本特性をin vitroで評価・比較した。さらに、in vitroで有効性、安全性が見出された各種DDS化C60フラーレンの経口投与型医薬としての有効性を、炎症性腸疾患モデルを用いてin vivoでの検討を進めた。具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルピロリドン(PVP)などの水溶性高分子による化学修飾により、C60フラーレンの水溶性・分散性を向上させたDDS化C60フラーレン(PEGフラーレン、PVPフラーレンなど)を新規創製した。これらDDS化C60フラーレンの炎症性腸疾患治療薬としての基本特性をin vitroで評価した結果、C60フラーレンをPVPで包接したPVPフラーレンが、強い抗酸化作用を示すことを明らかとした。そこで、in vitroにおける炎症性サイトカイン産生の抑制作用を指標として、PVPフラーレンの抗炎症作用を評価した。その結果、PVPフラーレンは、抗炎症作用を有するとともに、in vitroで抗酸化作用・抗炎症作用が認められた濃度においても、細胞傷害性は全く認められず、極めて安全性に優れていることが示唆された。次に、代表的な炎症性腸疾患モデルであるデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎モデルマウスを作成し、体重推移・血便率・生存率・病理所見・生化学検査などを指標にin vivoでPVPフラーレンの治療効果を評価した。その結果、PVPフラーレンは、既に炎症性腸疾患治療薬として臨床で応用されている5-アミノサリチル酸製剤よりも顕著な治療効果を示した。さらに、in vivoにおける一般毒性を精査したところ、各種水酸化フラーレンは、治療効果が認められた投与濃度においても顕著な毒性は認められず、安全かつ有効な炎症性腸疾患治療薬となる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、C60フラーレンの分散性・水溶性・抗酸化活性の改善を図り、DDS化C60フラーレン(PEGフラーレン、PVPフラーレンなど)を新規創製した。これらの炎症性腸疾患に対する有効性・安全性をin vitro、in vivoで検討した結果、特に、PVPフラーレンが、強力な抗酸化作用、抗炎症作用を併せ持ち、かつ安全性にも優れた炎症性腸疾患治療薬となる可能性を見出した。本研究成果から、本研究課題は順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、より優れた炎症性腸疾患治療薬となるDDS化C60フラーレンを創製・探索するとともに、CD4+CD45RBhighT細胞移入モデル(クローン病モデルマウス)などの炎症性腸疾患モデルマウスを作成し、昨年度の検討で安全かつ有効な炎症性腸疾患治療薬となる可能性が示されたPVPフラーレンの炎症性腸疾患治療薬としての有効性・安全性評価をさらに進める予定である。さらに、医薬品化に必須であるADMEに関する情報を収集するため、腸管吸収性、細胞内・体内動態などを、透過型電子顕微鏡やICP-MSなどを用いて検討する。また、腸管での浸潤免疫細胞評価・サイトカイン評価など免疫細胞機能の観点からも予防・治療メカニズムを解析する。
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