研究概要 |
本研究はS-アデノシルメチオニン(SAM)に応答して,シロイヌナズナのCGS1 mRNA上で起こる翻訳停止がmRNA分解を誘導する機構を明らかにすることを目的としている。翻訳停止したリボソームを認識してmRNA分解機構が働くと考えられる。平成23年度はSAMによって翻訳停止したリボソームが抗生物質のピューロマイシンと反応しにくいことを明らかにした。平成24年度は,翻訳停止したリボソームとピューロマイシンの反応性をさらに詳しく解析した。 先行研究により,SAMによる翻訳停止が一時的であり,翻訳が再開することが示されている。そして,この翻訳の再開をシクロヘキシミドが阻害する。シクロヘキシミド存在下でピューロマイシン反応を行ったところ,翻訳停止したリボソームとピューロマイシンの反応が強く抑制されることが明らかになった。このことから,シクロヘキシミド非存在下でのピューロマイシンとの反応性には,翻訳再開によるピューロマイシン反応の促進が含まれていると考えられた。 翻訳停止位置で途切れたOGS1 mRNAを翻訳したリボソームのピューロマイシンとの反応性を調べた。その結果,SAM添加条件でのみピューロマイシン反応が抑制された。また,翻訳停止を引き起こさないmto1-1変異型のCGS1 mRNAを翻訳した場合には,SAMを添加してもピューロマイシン反応は抑制されなかった。このことから,SAMによる翻訳停止に伴ってピューロマイシン反応が抑制されることが支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SAMによって翻訳停止したリボソームがピューロマイシンと反応しにくいことを明らかにした。他のシステムではリボソームのペプチジルトランスフェラーゼセンターの活性が抑制され,ピューロマイシン反応も抑制されることが報告されている。本研究では,複数の抗生物質を用いた解析から,SAMによる転座の阻害がピューロマイシン反応を強く抑制することを示した。転座に伴うピューロマイシン反応の抑制を調べた例は,真核生物では他に例がない。
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今後の研究の推進方策 |
SAMがいかにしてCGS1 mRNA上での翻訳停止を引き起こすのかを解明することを目的とする。SAMの作用メカニズムは制御の全体像を解明する上で核心となるため,非常に興味深い。試験管内翻訳系という単純な系でSAMに依存した翻訳停止が再現されることから,SAMは抗生物質のようにリボソームに作用するという作業仮説をたてた。 試験管内翻訳系を用いてCGS1 mRNAを翻訳中のリボソームを合成し,SAMとの結合を,フィルターバインディングアッセイとポリソーム解析によって検出する。
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