本課題は南極底層水の沈み込みに関わる様々な時空間スケールの現象を陽に再現可能な数値モデルを構築して大規模シミュレーションを行うとにより、その定量的な理解を目指すものである。現状の数値モデルにおいては、「そもそもどこでどれだけ底層水の起源となる高密度水が形成されているか」、及び「形成された高密度水とその周りに存在する相対的に軽い水の間に生じる乱流混合がどの程度の規模で生じるか」の2点が最大の不確定要素となっており、それらを正確に見積もる事が本課題の達成に直結する。本年度の研究では後者の問題に対して格子幅100m以下という極めて高い解像度のLarge Eddy Simulation(LES)が有効であることを示し、また高解像度LESモデルを現実設定で駆動するために必須である大規模並列計算環境への対応を行った。加えて前者の問題を解決するために受け入れ研究者である大島教授らを中心として南極沿岸域での現場係留観測計画を準備しており、その観測成果を元に数値モデルを検証・修正することで信頼性が飛躍的に向上することが期待される。南極底層水形成域での長期機係留観測自体が過去にほとんど例のない研究であり、そこから得られる観測データによって妥当性・信頼性を確保した上で、最先端の大規模計算機資源を駆使した高解像度かつ高精度の先駆的数値モデルにより南極底層水の実態を把握するという本課題の試みは海洋学・気候学の進展に大きく貢献することが期待される。平成23年度の研究成果は、その目標の実現に向けての着実な進捗と認めることができる。尚、本課題は当初平成25年度までの達成を目指すものであったが、代表者の特別研究員辞退に伴い平成23年が課題最終年度となる。今後は分担者として参加する基盤研究(B)「ケープダンレー沖は南極底層水の主要な生成域か?」(代表者深町康)等においてその実現を目指す。
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