研究課題/領域番号 |
11J02162
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
角山 貴昭 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 1分子生物学 / 脂質ラフト |
研究概要 |
1.CD59クラスターの形成とその可視化 本研究では、GPIアンカー型タンパク質であるCD59が会合して形成されるクラスターラフトとその下流分子のシグナル伝達機構を明らかにすることが目的である。つまりCD59のクラスター化と、そのクラスターの1分子可視化が本研究の重要な鍵となる。 当研究室では今まで抗体で被覆した40nmの金コロイド粒子を用いてCD59をクロスリンクし、明視野観察によってそのクラスターを1分子可視化してきた。しかしこの金コロイドを用いた手法は、二色観察が非常に難しいという難点があり、本研究で採用するには問題があった。そこで私は金コロイドに変わる新たな手法として、蛍光分子を内包したポリスチレンビーズを用いる手法を確立した。 様々な条件検討の結果、金コロイドで用いていた非特異吸着ではなく、ビーズの表面に修飾されたカルボキシル基と抗体分子のアミノ基を化学的に架橋する事でより安定で均一な抗体被覆ナノ粒子を作成する事に成功した。このビーズを用いて金コロイドと同等の結果が得られており、解析を進めている。 2.蛍光分子の長寿命化 1分子蛍光法において、常に問題になるのが蛍光分子の退色現象である。1分子レベルのシグナルを得るためには強い励起光が必要になり、蛍光寿命は反比例的に短くなる。今までの研究で、溶存酸素の排除や三重項クエンチャー分子の添加によって蛍光分子の長寿命化が試みられてきたが、どれも生細胞に適用させることが出来るものではなかった。 私は低酸素状態(10-2%)と細胞毒性が小さい三重項クエンチャー分子であるTroloxを用いて、生細胞中での蛍光分子の長寿命化に成功した。この手法によって2-10倍まで長寿命化することが可能になった。特にtetramethylrodamine分子は、元の寿命が6秒程度だったものが最適条件下では60秒になり、生細胞中において1分子を数分間トラックすることが可能という、世界に例を見ない成果を上げる事が出来た。 私が開発したこの手法は細胞毒性が非常に小さく、ほとんど全ての系に応用可能である。すなわち、今まで数秒しか行うことが出来なかった1分子レベルの観察全てが、数分間のオーダーで観察する事が可能になったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的に、蛍光ビーズを用いた実験というものは非常に難しい。ナノメートルレベルの微粒子であるために、常に異常な凝集や非特異的吸着の問題が付きまとうからである。私は抗体を化学結合させ、適切なブロッキングを施す事でこの問題を解決する事ができた。本研究にとってはクラスター化が一番の要となるので、これは大きな進歩という事が出来る。さらに生細胞中における蛍光分子の長寿命化は、世界でもほとんど例がない成果である。これに成功した事によって、世界でもユニークな結果を得られる事が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
去年の成果で、CD59クラスターラフトの可視化を成功させた。申請時の計画に書いた通り、これからはこの可視化したCD59クラスターラフトと、予想されている下流シグナル分子の1分子同時観察を行う。この観察により、下流分子がクラスターラフトにリクルートされるタイミングや長さといったものを測定し、シグナル複合体のダイナミクスを一挙に解明していく。 また、変異体タンパク質やインヒビターを用いた実験により、複合体形成がタンパク質間相互作用によるものなのか、脂質相互作用によるものなのかを明らかにする。
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