研究課題/領域番号 |
11J02179
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 啓太 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | テラヘルツ波 / スピン制御 / スピン再配列転移 / 磁性体 / フェムト秒パルスレーザー |
研究概要 |
希土類オルソフェライトErFeO_3の粉末試料をフローティングゾーン法で単結晶化したものを対象にテラヘルツ時間領域分光測定を行った。この物質は反強磁性体でありながら強磁性体のように自発磁化を持ち、強磁性モードと反強磁性モードという2つの磁気共鳴モードを持つことが知られている。本研究では、テラヘルツ波の磁場成分を用いた励起によって、これら2つの磁気共鳴モードに由来する磁気双極子放射の発生を捉えることに成功した。室温における測定では、強磁性モードは377GHz、反強磁性モードは673GHzの振動数を持つ電磁波の放射として観測でき、特にc面平行平板サンプルにおいては強磁性モードが楕円偏光の電磁波を放射することが確認できた。 またオルソフェライトの中にはスピン再配列転移という温度によって自発磁化の配向方向が切り替わる磁気相転移を示すものがあるが、ErFeO_3の場合、高温相ではc軸方向、100K以下の低温相ではa軸方向が安定な状態となる。この相転移近傍における強磁性・反強磁性の両共鳴モードの振る舞いを調べたところ、以前から報告されていた強磁性モードの共鳴周波数のソフト化の観察に加え、磁気放射のモード・偏光の変化、さらに強磁性モードスピン歳差運動の緩和の高速化などを捉えることに成功し、再配列転移に関して新たな知見を得ることができた。特に相転移による放射偏光やモードの切り替わりを観察することで、数ピコ秒の時間分解能でスピン再配列転移の存在を検出可能になるため、今後超短パルスや高強度テラヘルツ波で再配列転移を発生させた場合に超高速時間スケールで転移のダイナミクスを調べるために有効であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の予定ではオルソフェライト単結晶の作成、室温でのテラヘルツ測定による反強磁性共鳴の観測、スピン再配列転移による共鳴周波数の変動などを捉えることを目標に研究を行っていたが、これらについては予定通り結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、可視光超短パルスレーザーでサンプルを励起し、発生した変化をテラヘルツ時間領域分光測定で見るため、チタンサファイアレーザーの1kHz再生増幅器を光源としたポンププローブ光学系を作成しているところである。 今後はまずこの装置を完成させ、ポンププローブ測定を行うことを目標とする。また、すでに当研究グループ内で完成している高弦度テラヘルツ光源による測定を行い、非線形な応答・非調和性の発現が確認できるか調査を行う予定である。
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