研究課題/領域番号 |
11J02195
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
松尾 善典 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | ゲージ/重力対応 / AdS/CFT対応 / 超弦理論 / Black hole熱力学 / 情報喪失問題 / membrane paradigm / ゲージ理論 / QCD |
研究概要 |
この研究の目的は、ゲージ/重力対応がどのような場合に成立しているか、また、どこまで拡張が可能であるかを明らかにすることである。第2年度の研究では、まずゲージ理論側の流体との対応に注目し、重力との対応関係について調べた。また、流体との対応においては有限温度の系を考えるため、重力側でのブラックホールの熱力学も重要であると考えられる。そこで、ブラックホールの熱力学的性質についても研究を行った。また、ゲージ/重力対応の応用として、格子ゲージ理論の数値計算に有用と思われるorbifold等価性という性質についてAdS/CFT対応を含む様々な模型について検証した。 まず、ゲージ/重力対応におけるゲージ理論の流体とブラックホールとの対応については、特に流体中の音波(縦波)に関する物理を中心に研究を行った。特に流体が電荷を持つ場合において、流体中の音波が重力理論からどのように再現されるかについて調べた。また、この時に、流体の音速や粘性(Bulk viscosity)、電荷の拡散係数や電気伝導度などがBoundaryの位置、すなわち理論のスケールによってどのように変化するかを調べた。また、流体とブラックホールとの関係については、ゲージ/重力対応以前の研究においてもMembrane paradigmと呼ばれる研究行われていたが、これがAdS/CFT対応とどのように関係しているのかを調べた。この結果、horizon近傍では流体の密度は常に一定に保たれており、縦波は空間の歪みに付随してしか現れないことが分かった。また、Bulk viscosityについても密度が一定になるという条件を無視して計算すれば負のBulk viscosityが出るが、この部分は密度一定の条件を課すとゼロになってしまうということが分かった。 ブラックホールの熱力学的性質に関する研究では、ブラックホールの蒸発のプロセスについて調べた[4]。これは、ブラックホールの熱力学的性質が現れるのが、実際の物理現象としてはHawking幅射の黒体輻射としての振る舞いであり、また、ブラックホールのエントロピーが情報喪失の問題に関係すると考えられるためである。我々は、ブラックホールの蒸発の過程において、Hawking輻射からブラックホールや時空そのものに対する影響を取り入れて蒸発のプロセスを解析した。この結果、仮にブラックホールが非常に薄い球面上に分布した物質の重力崩壊によって作られる場合はHawking輻射が減衰していき最終的に蒸発しないということが分かった。ブラックホールが蒸発するかどうかは、重力崩壊を起こす物質の初期条件に依存する。我々は、次に連続的に分布する物質の重力崩壊で生成されるブラックホールについて考え、これが最終的に蒸発することを示した。また、このブラックホールが外部の輻射場と平衡状態にある場合、ブラックホールはHawking温度の熱力学的な物体として振る舞うことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究においてまだ論文が掲載されていなかった部分についても、本年度において論文が掲載れた。また、当初は2年度目の研究として予定していたブラックホールのエントロピーに関する研究についてもブラックホールの蒸発に関する研究として前年度にすでに得ていた成果をさらに発展、修正することで新しい成果を得ることができた。また、3年度目の研究に向けてM理論と関係した研究もすでに始めており、2年目の研究としては十分な結果である。よって、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ゲージ/重力対応の応用としては、特にM理論においてゲージ理論側の理論がまだ完全には理解されていないこともあり、M理論に関連する部分を中心に研究を進める。特にゲージ理論としての記述が明らかになっていないM5-braneなどについて、重力側の計算結果などを利用しながらゲージ理論の性質について明らかにしていく。また、M理論に拘らず、それ以外の応用についても考える。 ブラックホールのエントロピーに関する部分については、ブラックホールの蒸発に関してはある程度の成果があったものの、エントロピーそのものについてはまだよく分かっていない部分が多い。よって、これについてさらに研究を進めていく。
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