アザジラクチンはインドセンダンより単離、構造決定されたリモノイドの一種であり、高度に酸化された縮環構造を有している。また、捕食昆虫に対しては強力な摂食阻害、変態阻害活性を示すが、哺乳類に対する毒性は非常に低いという興味深い生理活性を示す。アザジラクチンのような複雑な巨大分子を合成する場合には、部分骨格を連結する収束的な方法を用いることが一般的である。しかし、私は複雑な分子の合成でも生合成並みに効率的な分子変換ができれば、短工程での全合成が可能であると考え、研究を開始した。 まず初めにオキサチアジナン環の直接的開裂を行った。以前の方法では、D環上C15位に官能基を導入し、β脱離させることでオキサチアジナンを開裂しなければならなかった。しかし、トルエン環流下、AlH_3を作用させることによってS-0、S-N結合の還元的開裂を達成し、アミノアルコールを合成することができた。その後、C12位アミノ基を選択的に酸化することによって、C12位ケトンへと変換することができた。 次にC12位ケトンを足がかりとし、C環C12-C13結合の開裂を行った。まず初めに生合成仮説で提唱されているNorrishII型の光反応を検討した。しかしC8位メチル基の立体障害のため望みの生成物は得られず、基質が分解するのみであった。そこで、Baeyer-Villiger酸化を行ったところ、望みのC12-C13結合を開裂したラクトンを高収率で合成できた。その後、ラクトンを加水分解することによって、非常に混みあったC8-C14結合を持つ重要中間体の合成を達成した。
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