研究概要 |
低次元材料の格子欠陥を制御することによって熱整流作用を実現することが本研究の目的である.低次元材料を用いるのは格子欠陥の影響を顕在化させるためである.現在の技術で最も低次元とされている単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いることで熱整流作用が発生することが本研究グループによる数値計算によって示されている.しかしながら,これを実験的に実現するにはいくつかの課題が存在する.1つはSWNT1本の熱伝導率計測の困難さである,SWNTは直径1nmほどであることとバンドルしやすいことから1本のナノチューブが孤立した状態を得ることが難しい.そこで本研究者らは九州大学先導物質化学研究所の吾郷研究室で四端子電極上に数本のSWNTを架橋状態で生成し,そのうちの1本だけを選別して他を排除する実験手法を確立した.これによってSWNTをハンドリングすることなく,孤立SWNTの熱伝導率を計測することが可能である. 工程を簡単に説明すると,CVD法で基板に垂直方向へ生成されたSWNTは前駆体ガスの供給が終了すると基板へ倒れこむがこの方向はガスの導入方向に依存する.その際にトレンチを設けた4本の電極をまたぐように架橋したものが数本できる.これらを高解像度FESEMで確認し,低真空SEM内のマニピュレーターを用いて余分なSWNTを排除するというものである.真空中では架橋された試料のジュール発熱の逃げ場は両側の電極部分だけであるため,直接通電加熱法によりSWNTの熱伝導率計測が可能となる. この手法は複数本の中から状態の良いナノチューブを厳選して計測することのできる画期的なものである.前述のFESEMとRaman分光というカーボンナノチューブの分析法を組み合わせてSWNTを評価した上で1本を選び,計測時のSWNTの接触抵抗が大きな問題となっていたため接触抵抗低減のためのElectron-beam-induced deposition( EBID)によるPt堆積を行ったうえで計測を行った.
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今後の研究の推進方策 |
計画通りナノチューブへの格子欠陥導入を試みる.SWNTを対象とする前に,扱いの容易な多層カーボンナノチューブ(MWNT)に対して欠陥を導入し熱伝導率を計測する.なおMWNTに関しては空気中で加熱することによって欠陥が導入されることをすでに確認している.欠陥有り,無しのMWNTの熱伝導率を比較することによってカーボンナノチューブのような低次元材料の欠陥が熱伝導率へ与える影響を調べることができる.これは実用上非常に有益な情報である.また,カーボンナノチューブは熱伝導率の異方性を持つとして注目される材料である.欠陥によって軸方向の熱伝導が阻害されることで熱伝導率の異方性に関する知見も得られる.
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