研究概要 |
本研究課題は、情動反応が注意の補足にどのような影響を与えるかを実験的に調べることである。よって、情動、注意、そしてこの2つの認知機能の相互関係を検証し、本研究課題を解明することが目的である。2年目は2つの研究を行った。1つ目の研究は、注意に関する研究で、他者の視線方向によって喚起される空間的注意のシフトがどのようなメカニズムにより生じるかについて検討した。2つ目の研究は、注意と情動の相互関係について調べる研究として、直視が無意識提示された際、脳内でどのように処理されているかについて検討した。 1つ目の研究:ヒトは他者の視線が向いている方向(例:左や右)に空間的注意のシフトが生じることがわかっていたが、その生起要因はまだ未解決であった。よって本研究はこの現象が、反射的に生じるのか(反射的要因)、それとも他者の視線方向を認識した後に生じるのか(自発的要因)について心理学実験と眼球運動解析を用いて検証した。結果として、自発的要因説を支持する結果が得られた。よって本研究は、他者の視線方向を知覚することにより生じる空間的注意のシフトは、その視線方向を認識してからでないと生じないとする、自発的要因説を支持するものであった。(Ybkoyama et al., Experimental Brain Research, 223, 291-300) 2つ目の研究:情動反応を喚起するといわれている直視(他者が自分を見ている視線方向)を意識にのぼらないように操作した際、その視覚情報が脳内でどのように処理されているかについて検証した。検証方法として、continuous flash suppressionを用いて視覚刺激を意識にのぼらないようにし、直視と逸らし眼の無意識提示時の脳波を計測した。結果として、直視を無意識提示した際、前頭・頭頂領域にて刺激提示後240msで陰性方向に大きな脳波の振幅が見られた。よって本研究は情動を喚起する直視は直視以外の視線方向よりも意識にのぼる前に有効的な処理がされており、その処理は刺激提示後240msに生じることがわかった。本研究は現在Neuropsychologia誌にて査読中である。
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