研究課題/領域番号 |
11J02274
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
池野 なつ美 奈良女子大学, 大学院・人間文化研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 中間子原子 / π中間子 / 理化学研究所RIBF / (d,3He)反応 / 中性子奇数核 |
研究概要 |
中間子―原子核束縛系(中間子原子及び中間子原子核)の研究から強い相互作用の様相、すなわち有限密度における量子色力学(QCD)の対称性の振る舞いや、種々のハドロン構造に関する理解を深め、更に重い中間子を含んだハドロン多体系へと研究を発展させる事を目的としている。本年度は、昨年度と同様にπ中間子原子の研究を行った。 現在までのπ中間子原子生成は、理論・実験ともに偶一偶核標的のみが研究対象となっていた。偶一偶核標的で(d,3He)反応によって生成されたπ中間子原子は、π中間子―中性子空孔状態を持つ。その為、観測されたπ中間子原子から物理量を引き出す際に、π中間子と中性子空孔状態間に働く残留相互作用を考慮しなければならない。今までの解析では、残留相互作用の影響が実験誤差より小さいため無視されていたが、より高分解能実験では、残留相互作用の影響を無視することができなくなる。 そこで、今回、中性子数が奇数の原子核(奇核)を標的としたπ中間子原子の生成に着目した。偶一偶核標的における定式化を発展させ、量子数J=1/2をもつ奇核117Sn標的におけるπ中間子原子の生成スペクトラムを計算した。その結果、偶一偶核116Snの基底状態に束縛するπ中間子1s状態は、明確なピーク構造をもつことをわかった。このπ中間子原子状態は、残留相互作用の影響を受けない為、偶一偶核標的において生成されるπ中間子原子よりも、観測量から物理的に興味ある情報を引き出す際の不定性が小さく、精密にQCDに関係した物理量を決定するのに適していると考えられる。 また、奇核標的におけるπ中間子原子生成は、理化学研究所RIBFで実験が計画されているため、この研究成果は実験研究者との共同研究を通じて将来的に発展すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
奇核標的におけるπ中間子原子の生成スペクトラムを計算することが出来た。明確なピーク構造として生成されるπ中間子原子状態は、残留相互作用による不定性を取り除き、より精密にQCDの対称性と密接に関係する物理量を決定するのに適していると期待される。この内容に関して、論文をまとめて現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
様々なハドロンに関する研究を発展させるために、原子核にπ中間子を2個束縛させた2π中間子原子の構造の研究を行う。2π中間子原子では、π中間子-π中間子間に働く強い相互作用が、QCDの対称性と関係のある物理量を含んでいるため、1π中間子原子とは異なる量からカイラル対称性の部分的回復に関する情報を得ることが出来ないか新しく検討する。 また、重い中間子と原子核の束縛系に関しては、重い中間子と原子核間の相互作用の検討や、現実的な生成反応について研究を発展させる。
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